『実務担当者のための取適法の基礎と勘所』(『旬刊経理情報』2026年10月1日号掲載書評)

書評

実務担当者のための取適法の基礎と勘所 旬刊経理情報』2026年10月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:那須 秀一 氏)に『実務担当者のための取適法の基礎と勘所』武井 祐生〔編著〕森 悠樹・堀部 道寛・前田 啓太〔著〕を掲載しました。







2026年1月、従来の「下請法」が大幅に改正され、「取適法」が施行された。公正取引委員会や中小企業庁による監視・執行体制が強化され、企業の法務・購買・調達部門の負荷と責任は増している。日々の現場業務が円滑に運営されることに配慮しつつ、取引適正化の理念を現場に落とし込むことに尽力する企業担当者にとって、待望の指針となる1冊が本書である。

取適法が定めるルールは細かく、本書でも指摘されているように、企 業の日常的な「ビジネス感覚」と必ずしも一致しないルールが存在してい る。それゆえ、悪気がなくとも、現場の判断や従来の取引運用の延長で 「うっかり型の違反」が生じ得る。

本書は、取適法の改正ポイントをわかりやすく解説したうえで、適用範囲、義務、禁止行為についても、コンパクトかつ網羅的に解説しており、取適法の地図を自分の知識として獲得するためにたいへん有益である。ビジネス感覚とのギャップによる違反リスクを回避するために、企業担当者が手に取るべき解説書といえる。

コンパクトな解説のなかにも、実践的な内容が盛り込まれている。役務提供委託の該当性判断における「他社に提供する役務」と「自ら提供する役務」の区別や、製造業において活用されているジャスト・イン・タイム生産方式導入時の留意点など、実務上判断が難しいポイントについては、具体的なケーススタディの形で解説がなされている。

また、取引相手方の従業員数の把握方法、特定運送委託の執行動向に加えて、2027年4月1日に施行予定の支払告示や改正物流特殊指定といった最新の話題は「コラム」で取り上げられており、取引適正化の最新の動向も把握したいという読者のニーズを、的確に捉えたものとなっている。

さらに特筆すべきは、取適法の解説にとどまらない、「平時対応のポイント」や「有事の対応」の解説の手厚さである。社内調査において取適法違反行為が発覚した際の被害回復措置をどこまですべきか、また、自発的申出を行うかどうかといった実務的な悩みについて、近年執行事例が頻発している「金型の無償保管」の事例などをケーススタディとして提示し、具体的かつわかりやすく解説している。

大手法務事務所で多くの実績を積んでいる筆者の経験を踏まえ、取適法実務に携わる企業担当者や法律実務家が各場面で対応すべき具体的指針を提示しており、競争法を取り扱う弁護士にとっても価値がある内容となっている。平時の体制構築から有事処理まで網羅しつつ、約230頁と全体を通読するのにちょうどよい分量である点も魅力だ。

取適法への対応は、単なるコンプライアンスを超え、持続可能なパートナーシップ構築の根幹をなすものであり、企業の競争力にも直結し得る。現場での「うっかり違反」を防ぎ、実務の各場面での適切な運用を目指す企業担当者や法律実務家にとっては、本書は取適法の地図として、デスクに備えておくべき1冊である。

那須 秀一(きっかわ法律事務所 パートナー弁護士)

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