『事例でわかる租税条約の読み方と適用の仕方』(『旬刊経理情報』2026年9月20日号掲載書評)

書評

事例でわかる租税条約の読み方と適用の仕方 旬刊経理情報』2026年9月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:南 繁樹 氏)に『事例でわかる租税条約の読み方と適用の仕方』赤塚 孝江〔著〕を掲載しました。







企業の税務担当者、税理士・公認会計士、そのほか国際税務を仕事とする人はただちに本書を手に取るべきである。なぜならば、本書は租税条約の基礎に始まり、盲点に注意喚起し、かつ多様な条約の奥深さまでカバーしているからである。

まず、初心者の方。税理士・公認会計士でも租税条約には苦手意識をお持ちの方がいらっしゃるのではないだろうか。租税条約は資格試験には出題されず、実務でも国内税法が業務の大半なので、実務で経験的に身につけていく方が多い。

しかし、租税条約の適用関係は複雑で、かつ国ごとの差異があり、きちんとした租税条約の読み方を身につけておかなければ危険である。本書は冒頭で国内法と租税条約の関係を説明した後(5頁)、具体的な検討プロセスがステップごとに説明されており(9頁)、そのステップに従って検討すれば、結論にたどりつく。初心者も本書で汎用的な租税条約の適用関係を確実に身につけることができる。

次に、数年以上の実務経験のある中堅の方にも盲点を教えてくれる。たとえば、恒久的施設についての説明のすぐ後に「自由職業所得」が配置されている(47頁)。実務上は、恒久的施設の有無が問題になるのは人的役務の提供(出張、駐在、専門家の業務遂行)が多いが、恒久的施設の有無の検討で終わってはならない。

この「自由職業所得」条項はOECDモデル条約にはないので、米国や欧州諸国との条約には規定されていない。それに慣れているとアジア諸国からの人員派遣の場合に判断を誤ってしまうかもしれない。本書では、中国、シンガポール、フィリピン、タイ、香港との租税条約が解説されており、本書で習熟すれば間違えることはないであろう。

ベテランの方にも発見がある。ファンドで問題となることが多い事業譲渡類似株式譲渡について、オーストラリア、香港、中国、韓国、米国、モロッコとの各条約で要件や効果(課税/非課税、限度税率)が異なる。短期滞在者免税の日数のカウントのしかたも条約ごとに微妙に異なる。

また、匿名組合契約についても英国、オランダ、中国、韓国について租税条約本文・議定書における規定のしかたや「その他所得」条項が働く場面(源泉地国での課税権を認める条約、認めない条約)が解説され、それらの条項の相互関係と条約ごとのさまざまなパターンを知ることができる。腕に自信のある方は、日本法人が、NZ法人が商標登録したキャラクターの使用許諾を受け、米国市場における販売促進に使用する場合に源泉徴収は必要かについて答えられるか、試してほしい(147頁)。

事例の選択は絶妙である。OECDモデル租税条約に沿った典型的な条約とともに、個性のある条約も取り上げられている。大手税理士法人を経てプレミア国際税務事務所を創設し、世界各国に多様なクライアントを抱えながら世界80カ国を来訪した著者ならではの実務経験が活かされている。本書を手にとることで、初心者は苦手意識を取り払うことができ、すでに類書をお持ちの実務家にとっても知識をリフレッシュし、未知との遭遇によってさらに知識を豊穣なものとすることができる。

南 繁樹(長島・大野・常松法律事務所パートナー弁護士)

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