『強い「税務」―グローバルビジネスを進める組織と仕事』(『旬刊経理情報』2026年6月20日増大号掲載書評)

書評

強い「税務」―グローバルビジネスを進める組織と仕事 旬刊経理情報』2026年6月20日増大号の書評欄(「inほんmation」・評者:松原 有里 氏)に『強い「税務」―グローバルビジネスを進める組織と仕事』彦田 雅子〔著〕を掲載しました。







本書は「税務マネジメントの目的」とは何かというビジネスを進める際の本質的な問いかけから始まり、わが国の税務コンプライアンスひいては経営上の決定に携わるビジネスパーソン全体の意識を根本的に変えようとする意欲的な試みである。従来のわが国の会社の税務担当部署の役割といえば、申告期限に間に合うように正確に税額を計算し、社内外の会計・税務専門職と相談しつつ関連書類を漏れなく当局に提出することがすべてであった。

そこには、たとえば新規ビジネスを立ち上げる前に税務コストをトータルで下げるためのシミュレーションの作成や、国内だけでなく海外子会社を含めたグループ企業全体での最適な税務ポジションを考えるという俯瞰的な行動はなかなかみえてこなかった。逆にインバウンドの外資企業こそ、その視点でわが国に積極的に投資意思決定をしてきたという歴史が長く続いている。

この国内外の税務プロフェッションの意識の差は何に起因するのかというのが内資と外資企業で20年以上の豊富な実務経験を有する筆者の冒頭の問いかけであった。そして、最大の差はマインドセット(気づき)の差ではないかというのが筆者の解答である。それでは意識改革には何が必要なのだろうか。

まず申告書を作成するためだけの税務の狭義の専門知識だけでなく、税務マネジメントを意識できる人材の育成が急務であろう。たとえば、多くの企業には、従来の法人税・消費税の知識に加え、移転価格リスク、さらに昨今のトランプ関税や中東危機に対応するためサプライチェーン再構築が必須かつ急務であり、関税コストも念頭に置かなくてはならない。これは誰もが知る大規模のJTCだけでなく、中小企業やスタートアップ企業にあってでもある。また、大手企業ではBEPS2・0の行方も随時フォローしていく必要がある。とすると、単なる計算力(税務オペレーション)だけでなく、当該ビジネスの周辺の社会・経済状況を素早く正確に把握する能力(税務アドバイザリー)も必要となる。これは社内の単独もしくは少数の人間だけでできることではなく今流行りの生成AIやDXといったテクノロジーを駆使して税務コストやリスクを把握、分析する人材が別途必要ということを意味するのではないか。

という訳で、本書は第1章で税務マネジメントの目的、第2章でインハウスの税務部門の役割について概観した後、第3、4章で税務アドバイザリー特にサプライチェーンの把握に係る税務判断のステップを説明している。第5章で税務項目ごとのマネジメントに関し実務上の注意点を示し、第6章以下では、取引・製品別の注意点、とりわけケーススタディとして新規契約締結時、関連会社間取引時、M&Aにおける税務アドバイザリーとしての留意点が列挙されている。税務専門職だけでなく社内の営業職ひいては社内外の法務専門家とも情報共有すべき点である。最終章では社内税務教育の重要性も言及されている。日本企業の意識改革のためには、トップマネジメントの方々にもぜひ一読いただきたい本である。

松原 有里(明治大学専任教授)

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