書評
『旬刊経理情報』2026年5月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:田中 佑治 氏)に『Q&A 新リース会計基準の適用実務』日本橋アカウンティングサービス・朝日ビジネスソリューション・朝日税理士法人〔編〕を掲載しました。
2027年4月開始事業年度からの強制適用が迫る新リース会計基準。2024年9月に企業会計基準34号「リースに関する会計基準」等が公表されて以来、多くの企業にとってその対応は喫緊の課題となっている。特に、これまで賃貸借処理が認められていた不動産賃貸借契約などのオペレーティング・リースが、原則としてオンバランスされる影響は大きい。多店舗展開を行う小売業や飲食業などを筆頭に、実務現場では契約内容の網羅的な見直しとシステム対応に追われているはずである。本書『Q&A 新リース会計基準の適用実務』は、そうした経理財務担当者や会計監査人の切実な悩みに応える実践的なガイドブックである。
本書の最大の特徴は、単なる基準の表面的な解説にとどまらず、実務の現場で直面する特有の論点を業種別の商慣行や契約形態に踏み込んで分析している点にある。全体は大きく4部に分かれている。第Ⅰ部でこれまでの基準との相違点を俯瞰した後、第Ⅱ部ではリースの識別、リース期間の見積り、借手および貸手の処理、セール・アンド・リースバックといった個別論点を網羅する。さらに、実務負担を軽減する簡便的な扱いや移行時の経過措置まで、豊富なQ&A形式で詳解しており、読者は自社の状況に照らし合わせて具体的な対応策を検討しやすい構成となっている。
なかでも特筆すべきは、第Ⅲ部の「新リース会計基準と連結財務諸表」と、第Ⅳ部の「リース取引と税制」に関する充実した解説である。新基準導入にあたっては、単体決算における処理のみならず、連結グループにおけるリース取引の消去や重要性の判断が実務上のボトルネックとなりやすい。本書はこうした複雑な連結上の論点を、多数の設例を用いて明解に解きほぐしている。また、会計上はオンバランスされても税務上は従来どおりの取扱いが維持されるケースが多く、税効果会計の適用が不可欠となるところ、第Ⅳ部では令和7年度税制改正の動向も的確にキャッチアップし、実務担当者が最も頭を悩ませる差異調整に明確な指針を与えている。
Q&Aという構成を採用しているため、通読して全体像を把握する用途はもちろん、実務プロセスで疑問が生じた際に辞書的に活用することも可能である。新基準においては、簡便的な扱いや経過措置の選択によって、財務諸表に与えるインパクトや導入に係る人的コストが大きく変動する。さらに、オンバランス化による資産と負債の膨張は、ROAや自己資本比率など重要な経営指標に直結する。経理担当者のみならず、経営陣や各事業部門を巻き込んだ全社的な対応体制の構築が急務である点も強調しておきたい。早期に適切な会計方針を決定し、円滑な移行プロジェクトを推進するうえで、本書は信頼に足る羅針盤の役割を果たすであろう。
会計基準の字面を追うだけでは決してみえてこない適用実務のリアルを立体的に提示した本書は、来るべき新基準適用という大きな波と対峙するすべての実務家にとって、つねに手元に置いておくべき必携の1冊であると高く評価できる。
田中 佑治(株式会社エータイ 取締役)
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