書評
『旬刊経理情報』2025年11月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:高橋 克典 氏)に『経営者のための基幹システム読本』広川 敬祐〔編著〕を掲載しました。
本書は、基幹システム導入にあたっての、基本的知識、そのプロセス、注意すべき点などについての平易な解説がなされており、経営者に限らず、ITシステム装備が必須の現代の企業・組織運営に携わる者全般とって、格好の入門書となっている。しかし、あえて「経営者のための」とうたっているのは、著者の感触として、企業にとって不可欠の「基幹」システムについて、一般に経営者の関心が薄いことに危機感を抱いているためである。システム導入にあたっては、業者に任せきり、当該部門や部下に任せきりではなく、会社、経営者が主体的に取り組まないと失敗するリスクが高まることとなると、書中で何度も警鐘を鳴らしている。
また、2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」からも引用して、日本企業に多くみられる現状として、レガシーシステムへの固執を挙げている。すなわち、「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化・ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム」を利用し続けてしまうことである。「ヒト・モノ・カネ」と並ぶ重要な経営資源である「情報」に関するIT戦略の決定についても、経営者の重要な役割であることを認識しなければならないと説く。
構成は、1、2章で、基幹システムの重要性、3~6章で、経営者が知るべき基幹システムの基本的事項、7~9章で、基幹システムの構築・維持に関して経営者が認識すべき事項となっている。
基幹システムは、多くの個別業務システムの統合により、業務効率化・標準化・省人化・コスト削減に大幅な効果をもたらすことが期待されるが、部分最適ではなく全体最適の達成を志向するので、導入に際しては、業務自体の見直しや個別システムの見直しが並行して行われることになる。その際に、かえって業務効率が低下する危険性があるという課題を克服するために、基幹システムをパッケージ化したERPシステムの導入が進んでいる。なおERPとは、Enterprise Resources Planningの略で、企業の経営資源を適切に分配し活用する計画=考え方として「統合基幹業務システム」といわれる。
システム導入に際しては、所有(オンプレミス)か利用(クラウド)か、開発するかパッケージ利用するかの選択肢の判断基準なども示されるが、近年は基幹システムもクラウド利用ができる時代となっている。そして基幹システム刷新の場合は、改善レベルではなく「改革」となるべきであり、経営者は中長期のITビジョンを策定・明示し、ITガバナンスの整備・運用を図ることを進めている。
多年にわたり数多くの基幹システム導入に携わってきた著者により、実践により得られた教訓、具体的アドバイスが、全編に散りばめられており、ユーザー目線の示唆に富む入門書としてお勧めする。
高橋 克典(新創監査法人代表社員 公認会計士)
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