書評
『旬刊経理情報』2025年10月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:佐藤 修二 氏)に『税でモメた!どう防御する?―審査請求で覆す』北村 豊〔著〕を掲載しました。
本書は、『争えば税務はもっとフェアになる』(2020年)、『見解の相違を解消するヒント』(2022年)に続く、著者の3冊目の本である(いずれも中央経済社刊)。まずもって、着実なペースで3冊も出ていること自体、著者の人気を物語っている。それもそのはず、著者の文章は、税務の本であることを忘れるほど、読みやすく、わかりやすく、心を配って書かれている。
3冊のテーマは一貫して、国税不服審判所に対する審査請求である。評者は、その昔、弁護士から国税不服審判所の審判官に任官し(いわゆる任期付公務員)、3年間勤めていたことがある。だから、審査請求の実情は、それなりに知っている。本書(6~7頁)でも述べられるとおり、審査請求で納税者の主張が認められることは、統計的にはそれほど多いわけではない。しかし、これもまた本書にあるとおり(8頁)〝統計、のマジック〟ということもある。実際に勤務した評者の実感では、審査請求で納税者が勝つケースは、それなりにある。税務署の指摘に納得できない納税者にとって、問題は、自分の事件で主張が認められるかどうかである。統計は参考にすぎない。やってみる価値は、十分にある。
本書では、実際の審判所裁決をもとにした、25の成功実話が取り上げられている。裁決①は、「おじいちゃんはボケていただけ」である。軽妙なタイトルに惹かれて読んでみると、高齢の納税者が、うっかりして申告漏れをしたらしい。そうしたら、税務署から、隠すつもりだったんだろう、といわれ、重加算税を課されてしまった。これを読んで、評者は、審判所勤務時代を懐かしく思い出した。審判所では、税務署による重加算税の課税処分を取り消すことが珍しくない。「おじいちゃんはボケていただけ」なのにひどいじゃないか、ということだ。審判所の職員には国税当局からの出向者も多いが、逆に身内のことであるためか、重加算税の処分は厳しくみていたことをよく覚えている。
また、裁決.の「審判所は時間の無駄か?」も興味深い。実は、裁判所では救済できず、審判所だけが救済できる、という事案がある。それは、審判所は、違法な処分だけではなく〝不当〟な処分も取り消せる、ということだ。確かに違法ではないだろうけど、それでいいのか、いくら何でもそれはないんじゃないか、ということもある。審判所は、そんな場面で救ってくれることがあるのだ。
本書では、〝スピークアップ〟がキーワードとされている。著者の思いに勇気を得て、声を上げてみよう、という方が少しでも増えることを願う。著者の最初の本が五七五でいうとおり、〝争えば税務はもっとフェアになる〟と信じるからである。
最後に、本書は勇気をくれる啓蒙書であるだけでなく、審判所の裁決例を短くまとめた実務書でもある。かつて評者は『対話でわかる租税「法律家」入門』(中央経済社刊)で、納税者が勝った17の裁判の事例を紹介した。本書は、その審判所版ともいえよう。実務書出版の老舗、中央経済社の面目躍如である。
佐藤 修二(北海道大学教授・元国税審判官)
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