『ISSA 5000対応 サステナビリティ情報保証の実務ガイド』(『旬刊経理情報』2025年9月20日号掲載書評)

書評

ISSA 5000対応 サステナビリティ情報保証の実務ガイド 旬刊経理情報』2025年9月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:北川 哲雄 氏)に『ISSA 5000対応 サステナビリティ情報保証の実務ガイド』EY新日本有限責任監査法人〔編〕を掲載しました。







本書を読み、企業情報開示において100年に一度のことが起こっているではないかという印象をもった。大げさなことではない。

評者は 50年以上前の学生時代、「会計監査論」を受講したとき、1930年代の米国において上場企業に対する財務諸表監査がなぜ必要になったかを学んだ。健全なる社会統制機能を果たすために監査が必要であると感銘したことを覚えている。

そして、今整いつつあるサステナビリティ開示基準は「企業報告ビックバン」と評される(本書の著者も冒頭述べている)が、その保証基準の確立・保証業務の実践がなされることにより、1930年代以来の保証・監査におけるビックバンとなろう。

2021年にIFRS傘下にISSBが設立され、IASBと肩を並べる組織になったことには感慨深いものがあったが、本書を読むと、長年の課題が現実化しようとしていることがよくわかる。

投資家は整えられた総合的企業情報(財務情報+非財務情報)を読み込んだうえで企業価値を測定する。作成された情報が虚偽あるいは誤解を与えるものであるとき、測定不可能となる。

本書の構成・内容は次のとおりであり、4章に分かれている。第1章は「サステナビリティ情報の保証とは」と題され、保証基準が求められる背景や保証業務を考えるうえで欠かせない5つの要素、保証業務に求められる水準(合理的保証と限定的保証に分かれる)について述べられている。第2章「保証の基準・ガイダンス」ではISSA(国際サステナビリティ保証基準)5000が設定された背景・意義、従来適用されてきた保証基準との相違が説明されている。第3章の「保証業務の全体像」では第三者保証業務の流れ、保証対象項目について環境パフォーマンス指標と社会パフォーマンス指標とに分けて詳述されている。そして、最後の4章においては「保証業務の実務Q&A」と題され43項目の想定質問を設けそれに対する答えが丁寧に記述されている。

本章の特長として次の3点を指摘できる。

第1に、サステナビリティ保証基準の嚆矢になると予想されるISSA5000についてそのエッセンスが的確に解説されていることである。よくこの程度のボリュームにまとめられていることに驚く。

第2に、内容は章までが「基礎概念」編、4章が「実務」編と大別される。3章までの説明にはこれまで保証業務の知識に乏しい方にはやや歯ごたえがあるかもしれないが、4章を読むことによって具体的なイメージをつかめる構成になっている。

第3にコラム、図示、Q&Aスタイル(第4章)が効果的で内容を理解する役割を果たしているという点である。優れた解説書の条件を満たしている、として特筆したい。

サステナビリティ情報開示は、保証業務が軌道に乗って初めて意義を持つ。情報開示ビックバンの仕上げのために必須であり、本書の精読を事業会社の関係部署の方々のみならず広く資本市場関係者に薦めたい。

北川 哲雄(青山学院大学名誉教授・東京都立大学特任教授)

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