『監査法人の真価―公認会計士の一丁目一番地への回帰』(『旬刊経理情報』2025年8月20日・9月1日合併号掲載書評)

書評

監査法人の真価―公認会計士の一丁目一番地への回帰 旬刊経理情報』2025年8月20日・9月1日合併号の書評欄(「inほんmation」・評者:南 成人 氏)に『監査法人の真価―公認会計士の一丁目一番地への回帰』江越 眞・小笠原 直〔著〕を掲載しました。







本書は、監査法人業界の発展の歴史からみえてくるその課題を、当業界で格闘している2人の歩んだ歴史からひもとくものである。この課題は私自身も深く共感するところであり、今回、謹んで書評執筆の大役をお引き受けした。1人はトーマツの創業時から在籍し、海外を飛び回り、国外で信頼を勝ち得て、巨大監査法人を築いた立役者の1人である江越眞氏、もう1人は2008年に創業した監査法人アヴァンティアをオーガニックな成長で業界トップテンにまで育て上げた小笠原直氏。2人は強い縁で結ばれて業界の将来を議論し、政官財にも働き掛け、さまざまな活動を仕掛けてきた。

本書は、監査法人業界が果たすべき使命に対し、次世代へと続く正の遺産を築くべく執筆された。監査法人業界の使命は、企業が公表する財務諸表が投資家の投資判断に有用であることを保証することで、証券市場の安全かつ円滑な運営に黒子として寄与することに尽きる。この根源的使命があるからこそ、公認会計士という国家的なライセンスが付与されている。ところが、監査法人に所属している公認会計士数が、全体の4割にとどまり、監査業務の人手不足という問題が生じていることは看過できるものではない。問題なのは、業界に属するそれも責任のある方々が、これを直視し解決すべく行動するのではなく、自分の時代を何とかやり過ごし、逃げ切りとうそぶきながら外発的な要因を言い訳にし、負の遺産として次世代に付けを回そうとしていることであると糾弾している。

本書は、第1部、第2部、対談で構成されている。第1部は4つの章で構成され、江越氏が1960年代の「監査法人の黎明期を駆けた半生」が描かれている。それまで存在すらしなかった監査法人業界がいかに成長・発展を遂げたか、江越氏の半生を交えながら振り返るとともに、その影にどのような課題・問題点が浮き彫りになったかが明らかにされている。江越氏の「監査法人は皆、あまりに大きくなってしまい、コンサルティング業務中心で、一丁目一番地であるはずの監査業務に力を入れていない。そういう意味で、今は改めて日本の監査法人業界は曲がり角にあると思っている」という言葉に耳を傾ける必要がある。第2部は3つの章で構成され、小笠原氏の1990年代の徒弟時代からの歴史を、監査法人アヴァンティアを自ら創業し経営している立場で振り返り、中堅監査法人としての創業時の誓いや長期ビジョンである「AVANTIA2030」、未来図として監査人財の人手不足の処方箋にもつながる組織の分社化に言及している。対談では、江越氏から小笠原氏が引き継いだバトンを次世代に渡すイメージで議論されている。若い世代の皆さん、20代、30代に向けたメッ セージであり、明るい未来を創造する一助になるものである。

最後に、本書が公認会計士にとって最も根源的な「監査」の魅力を高め、若い世代が夢と誇りを持てるような魅力あふれる業界の実現に、多大な示唆を与えるものと期待したい。

南 成人(日本公認会計士協会 会長)

記事掲載書籍をカートに入れる