書評
『旬刊経理情報』2025年8月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:藤野 雅史 氏)に『実践 日本版FP&A―CFOが企業価値を高める経営管理の組織と手法』池側 千絵〔著〕を掲載しました。
企業会計に携わる人たち(評者もその1人であるが)にとって、「FP&A」は耳慣れない外来語の1つであった。ほんの数年前までは。それが今では、「経理財務の課題といえばFP&A」とされるほどに、よく知られるキーワードになっている。
本書の著者である池側氏は、そうしたFP&A普及の第一線に立ち、実務・研究両面をリードする。コンサルタントとして、多数の日本企業のFP&A導入・運用を支援するとともに、研究者としても学会から高く評価されている(既刊の『管理会計担当者の役割・知識・スキル』(中央経済社)は日本原価計算研究学会から学会賞を授与された)。本書は、そうした著者の経験と知識が凝縮された一冊である。
FP&AはFinancial Planning & Analysis の略称で、計画策定、業績管理、意思決定の支援といった管理会計の業務、あるいはその業務を担う人たちのことをいう。北米以外の地域では管理会計担当者やコントローラーとも呼ばれる。CFOの指揮下にある経理財務組織の一翼を担うだけでなく、事業部門や職能部門にもネットワークを張り巡らせて、業績目標の達成や意思決定の改善に貢献する。
FP&Aに関する書籍は増えてきており、複数冊が書店に並ぶ。書棚の一角に「FP&A」というコーナーまで設けられるようになってきた。しかし、多くは米国企業での実務をベースとした内容になっており、日本企業が紹介されるものはほとんどない。本書には、「日本版FP&A」というそのタイトルどおりに、日本企業がFP&Aに取り組むにあたっての課題やその対応策がふんだんに盛り込まれている。
本書の特徴は2つある。第1に、FP&A導入のためのきわめて実践的な示唆に富むことである。その一端を紹介しよう。日本企業のなかには、これまでの経理財務のあり方にそれほど不満を感じていないところもまだ多い。とすれば、FP&Aのために大がかりに組織を動かすのはハードルが高い。そこで本書は、「組織やレポートラインを変えることは難しくても、兼務でFP&Aチームを」作るアプローチを紹介している。FP&Aの取組みは「時間をかけて成果を出していく」ものである。
第2に、FP&A導入企業として本書の後半に登場する事例のバリエーションである。業種だけをみても、食品・飲料、情報通信、人材サービス、化学、化粧品、小売など多岐にわたる。また、長年にわたり産業界をリードする企業から新興のベンチャー企業まで、企業の規模や年数もさまざまである。これだけのバリエーションがあれば、これからFP&Aを導入しようとする経理財務担当者にとって、必ず参考になる事例が見つかるはずである。
最後に触れておきたいのが、本書は、FP&Aに携わる人たちだけでなく、これからFP&Aを目指す人たちへのメッセージでもあるということである。FP&Aという仕事は魅力的でおもしろい。本書を読んでいると、「楽しいから一緒にやりましょうよ」そんな著者の声が聞こえてきそうである。
藤野 雅史(日本大学経済学部 教授)
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