『ソフトウェア開発の会計・税務・リスクマネジメント』(『旬刊経理情報』2024年6月20日号掲載書評)

書評

ソフトウェア開発の会計・税務・リスクマネジメント 旬刊経理情報』2024年6月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:川口 洋司 氏)に『ソフトウェア開発の会計・税務・リスクマネジメント』(PwC Japan有限責任監査法人〔編〕 PwC税理士法人〔著〕)を掲載しました。







日本のコンピュータゲーム産業は、1970年代後半に誕生した。2000年代インターネットが普及するとオンラインゲームビジネスが成長し、2010年代に第4世代移動通信システム(4G)が整備されると、スマートフォンの普及とともにその成長は加速し、2015年にオンラインゲーム市場規模は1兆円を超え国内では有数のコンテンツ産業になった。

本書は、オンラインゲームを含むソフトウェア開発全般における会計・税務・リスクマネジメントの課題を幅広く取り上げた解説書である。

内容は、5章からなり、ソフトウェアを取り巻くビジネスの動向、アジャイル開発やDevOps等ソフトウェア開発の最新動向の解説を前提に、会計・税務・リスクマネジメントの課題が幅広く網羅的にカバーされており、経理実務担当者にとって参考になる。

たとえば、第5章ではソフトウェア開発業においてとりわけコンピュータゲームが変化の激しいビジネスであることから、ソフトウェアの会計処理の一例としてコンピュータゲーム業界における実務の解説が設けられている。

個人的に専門分野がオンラインゲームであるため、第5章のオンラインゲームを含むコンピュータゲームの解説が気になった。業界的な視点からみてみると、ゲーム業界の会計実務における事業形態別ゲームビジネスの整理が簡潔になされており、ビジネス形態における収益認識ごとの解説、課金アイテムゲームに関する収益認識の解説、ゲーム制作費の主要会計論点やゲームリリース前およびリリース後の会計論点等業界ならではのビジネスモデルを含めうまく整理されている。

また、ゲームリリース後の会計論点のように図表を駆使した解説は、読者の理解を深める役割を果たしている。さらに、先行プラットフォームでの失敗を受けて後続プラットフォームでのリリースを中止する場合や、海外展開における減損のグルーピング等の設例は、業界でありがちな案件だけに実務に役立つに違いない。

このようにゲームに関する会計実務が整理して詳述された解説書は、これまで類書があまりなかったのではないか。それだけにゲーム事業会社おける実務に有益である。

本書は、2022年7月に日本公認会計士協会から発行されたソフトウェア研究資料を踏まえており、ソフトウェア業界の今後の会計実務を考える際、先行しているゲーム業界の会計実務が参考になるという着眼点も面白い。

ソフトウェアが日々進化しているなか、オンラインゲーム業界に限らずソフトウェア産業は、ブロックチェーンやメタバース、AI等新たなテクノロジーを積極的に導入している。そのなかで生成AIの導入はこの数年であらゆる業界に普及すると思われる。

こうした動向を踏まえ、経理実務担当者にとって新しい課題が次々に生まれていくことが見込まれる状況下、読者からのフィードバックを踏まえた本書の続編刊行に期待したい。

川口 洋司(一般社団法人日本オンラインゲーム協会 事務局長)

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