『株式交付の法務詳解Q&A』(『旬刊経理情報』2023年7月10日号掲載書評)

書評

株式交付の法務詳解Q&A
旬刊経理情報』2023年7月10日号 の書評欄(「inほんmation」・評者: 菊地 伸 氏)に『株式交付の法務詳解Q&A 』( 邉 英基・ 坂㞍 健輔 〔著〕 )を掲載しました。







リモート会議の増加により自宅にも分野ごとの基本書、コンメンタール、立法担当官の解説書、法律実務書を揃えるようになったが、自宅の蔵書スペースの制約から、法律実務書については吟味を重ねて「これぞ」という1冊を選んできた。

法律実務書に求めるものは、大きく2つある。①制度とそのパーツの存在理由をわかりやすく説明していること、②本に従って間違いなく実務が進められること、この2つである。①に関しては、制度立案担当官の解説が安心できることはいうまでもない。他方、②に関しては、前提となる事実関係が案件ごとに千差万別であり、単純なマニュアルで事足りることはないから、実務が直面する事象を可能な限り注意喚起した書籍が望ましい。この観点からは実務経験が豊富な実務家がよさそうであるが、制度運用開始後間もない場合は経験値と予測可能性には限界があるから、新たな論点に出くわした場合に基本に立ち返って考える筋道を①の解説のなかに意識的に埋め込んだ書籍が一番の王道となる。結局、実務経験を積んだ立案担当官がよき編集者を得て、惜しみなく知識を提供する実務書が望ましいということになる。

さて、株式交付制度は、令和元年会社法改正により創設された制度であり、(ⅰ)子会社(ここでは議決権の過半数を保有する会社をいう)でない会社を子会社にするための、(ⅱ)自社株を対価とする株式取得という、かなり限定された用途のために用意されたものである。しかし、本書によれば、施行日である2021年3月1日から2022年11月15日までの1年9カ月足らずの間に18件が公表されており、その内訳は⒜上場会社が非上場会社を子会社とする事例11件(その後1件公表)、⒝上場会社の連結子会社(非上場)が兄弟会社(非上場)を子会社とする事例1件、⒞資産管理会社が上場会社を子会社とする事例6件ということである。

上場会社を子会社とする場合に重ねて公開買付規制が適用されることを考えれば、比較的よく利用されていると評価できる。したがって、会社法、M&Aを専門とする法律家、会計士、税理士、コンサルタント、インベストバンカーその他関係者は、株式交付制度の出番がいつやって来てもすぐに対応できるように、制度を自家薬籠中のものとしておくことが必要である。

本書は、法務省民事局参事官室でこの制度を一から立案・設計し、その後、株式交付制度を利用した案件をいくつも手掛けた弁護士の手によるものであり、制度およびそれを構成する個々のパーツの存在理由がわかりやすく記述されている(立案時の検討のみならず実務からのフィードバックもうかがえ、実に奥が深い)。また、具体的な事案で検討した成果と思われる細かな論点についての検討結果を惜しみなく提供しており( Q25、26、83、89、93、147、155、186など)、法律実務書に求められる前述の①②を十二分に満たしている。まさに株式交付制度に関する「これぞ」の一冊である。

菊地 伸(外苑法律事務所 弁護士)

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