『PMIを成功させるグローバルグループ経営』(『旬刊経理情報』2023年5月10・20日号掲載書評)

書評

PMIを成功させるグローバルグループ経営
旬刊経理情報』2023年5月10・20日号 の書評欄(「inほんmation」・評者: 飯塚 尚己 氏)に『PMIを成功させるグローバルグループ経営 』( 前田 絵理 〔編著〕 黒澤 壮史・ 渡辺 直樹・ 山口 博正・ 池田 聡・ 小林 広樹 〔著〕 )を掲載しました。







日本企業に、M&A巧者は少ないといわれる。実際、著名なグローバル企業がM&Aの失敗により巨額の減損を計上する事例も散見される。M&Aの実行にあたっては、買収対象企業の選定、デューデリジェンス、買収交渉などの段階で入念な検討が行われているにもかかわらずである。なぜであろう。1つのあり得る回答は、買収後の企業価値向上の総合的なプロセス、いわゆるPMI(post merger integration)に課題があることであろう。本書は、いかに効果的にPMIを実行していくかを含めた、M&A戦略に関する実務的な指南書である。

本書の内容を簡単に紹介しよう。第1章は、M&Aを経営戦略全体のなかでどのように位置づけていくのかについて、理論と実務の両面で包括的に解説している。「地域軸」と「事業軸」という2つの観点から、M&A戦略が説明されている点が特徴である。

第2章は、ガバナンスに関する解説である。PMIを適切に実施するためには、取締役会などによるモニタリング機能が重要になる点が強調されている。第3章は、グループガバナンスとリスクマネジメント体制に関する解説である。グローバルに展開するグループ子会社を、グローバル本社や地域統括会社などがいかに統治していくかを中心に企業の実例を含めて説明されている。第4章は、人事・人材戦略の観点からPMIの課題と対策が説明される。特にクロスボーダーM&Aが期待された効果を発揮できない理由の1つとして、企業文化の違いなどから人材流出が発生するなどの問題がある。第5章は、ファイナンスの面からPMIの課題を整理している。統合プロセスを適切に管理するためには適切なKPIが必要になるが、こうした財務面でのKPIについても解説されている。

第6章は、買収企業の選定、デューディリジェンス、買収交渉といったM&Aの一連の事前プロセスで、最終的なPMIを意識した検討を行う必要性が強調されている。最後の第7章では、執筆陣が実施したグローバル企業4社へのヒアリングの概要が紹介されている。

本書の執筆陣は、企業法制の専門家、経営学者、企業経営者などさまざまな専門性を持ち、それぞれの立場からM&Aの実務に携わっている。M&Aに関する豊富な知識と経験をもつ執筆陣の書籍だけに、PMIに関する実務面での詳しい解説や具体的な企業事例などが豊富に紹介されている。M&Aの実務に関わる関係者はもちろん、M&Aの執行・監督に携わる経営者や独立社外役員にも一読を薦めたい書籍である。

また、本書は、タイトルからもわかるように、グローバルに事業展開を行っている企業のPMIを紹介しているが、国内でのM&Aにより成長をしている企業にとっても参考になる書籍である。たとえば、新興企業がM&Aをマネジメントする際の実務的な参考書とするのもよいと思われる。経営コンサルタントを生業としている評者にとっても、多くの知識を得られた一冊であった。

飯塚 尚己(SESSAパートナーズ㈱ チーフコンサルタント)

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