『不正調査の「法律」「会計」「デジタル・フォレンジック」の実務』(『旬刊経理情報』2023年4月10日号掲載書評)

書評

不正調査の「法律」「会計」「デジタル・フォレンジック」の実務
旬刊経理情報』2023年4月10日号 の書評欄(「inほんmation」・評者: 平林 元之 氏)に『不正調査の「法律」「会計」「デジタル・フォレンジック」の実務 』( 弁護士法人トライデント・ アスエイト・アドバイザリー株式会社〔編著〕 )を掲載しました。







今、あなたが経営している、もしくは勤めている会社で不正が発覚したとしたら、落ち着いて冷静な対応ができるだろうか。不正対応という、あなたが経験したことのないであろうさまざまな判断や対応を急に迫られることになり、日常の業務を差し置いて、そこに多くの労力や時間を割かざるを得ない状況になる。不正というのは、自然災害のように突然やってくる。

本書は、万が一自社で不正が発覚してしまったときの有事の緊急対策を、初期調査、本格調査、再発防止など、実際の実務手順に沿って解説をしている。有事の際の捜査当局や監督官庁、メディアへの対応や、不正関係者へのヒアリング、証拠の保全・収集など、不正対応・不正調査は対応を一歩でも間違えると大事になりかねないが、対応の流れが時系列で整理されているためイメージがわきやすく、それぞれの場面における留意点もケースバイケースで具体的に解説されている。また、有事に備えての平時対応にも有効であろう。

本書の一番の特徴は、弁護士・公認会計士の両方の国家資格を有する実務経験豊富な執筆陣が、「法律面」と「会計面」の両側面から横断的に不正調査のノウハウを著述していることである。したがって、法的側面においては、法的な根拠や判例などに基づいた実務の流れや、不正関係者の社内処分、民事・刑事責任、そして実際に問題となった事案のケーススタディも取り上げている。会計的側面においては、勘定科目ごとの不正の手口や留意点を取り上げており、不正調査の手法のみならず、不正を防止するための内部統制構築のヒントになる。

また、ITの普及・浸透、DX化の流れ、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる急激なデジタル化の促進など、企業を取り巻く環境は数年前とは比べものにならないほどにデジタル化が進んできている。そのため、これまでは持ち出すことが困難だった機密情報や個人情報などが、簡単に外部に持ち出せるような環境になっているなど、デジタル化に伴って企業のリスクも高まっており、不正調査の実務的な観点からも、リスクマネジメントの観点からも、デジタル・フォレンジック(デジタル鑑識)についての知識・理解は必要不可欠であると考える。

不正が起こるリスク要因は、①動機・プレッシャー、②機会、③姿勢・正当化の3つに分類されるが、不正は人が引き起こすものであり、①動機・プレッシャーと③姿勢・正当化については個人の心理に帰着する部分が比較的大きい。本書で解説されている不正調査の手順においては、関係者の心理に基づいた手続上の留意点も詳細に記述されており、不正に関する人間心理を理解するうえでも、実務で大いに役立つと期待される。

経営者や内部統制担当者、リスクマネジメント担当者をはじめ、不正調査の実務に携わるすべての方に対して、手順書・バイブルとしてお薦めしたい一冊である。

平林 元之(公認会計士)

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