『価値創造経営―企業事例から学ぶ8つのポイント』(『旬刊経理情報』2022年9月10日号掲載書評)

書評

価値創造経営―企業事例から学ぶ8つのポイント
旬刊経理情報』2022年9月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 作田 久男 氏)に『価値創造経営―企業事例から学ぶ8つのポイント 』( 青嶋 稔〔著〕 )を掲載しました。







年間3つの会社でCEOを務めた身として、CEOの最大の役割は新しい価値創造だと思う。
昨今、日本の企業の多くがPLに偏重した経営に走り過ぎているのではないかと懸念している。日本での新規事業の発生率が諸外国に比べて低いのはこの辺にも要因があるように思う。
日頃こんなふうに思っているなかで本書に出逢い、同調して書評を書いている次第である。
企業経営の運営には、3つの主体者が参画していると思う。

  • 1つ目は、株主で、資本で参画している。
  • 2つ目は、顧客で、その会社の商品を活用してさらなる価値を付加して社会へ提供という形で参画している。
  • 3つ目は、当該会社の役員を含む社員で、知恵と労力で参画している。

一方、企業は法人であるから"who I am"が明確でなければ社会はその存続を認めない。
そのため、前述した3つの主体者に加え、社会も含めたステークホルダーのワクワクドキドキするような期待に経営は応えねばならない。
その辺の役割と責任が経営陣、わけてもCEOにあると思う次第である。
企業経営に対面したとき、次の3つが重要だ。

  • 何のために philosophy
  • 何を politics
  • どのように economics

しかしながら、日本企業の場合、PLに拘り過ぎるあまり、どのようにするかの「economics」のhow toに偏りすぎているのではないか。
「何のために、何を」やるかの拘りも大切である。
本書では、企業価値を高めることに成功している企業事例を交えつつ、企業が価値を高めていくためのポイント(日本企業の企業価値低下要因)を紹介している。

① 経営理念からパーパス経営への進化
② 変化対応力を高めるレジリエンス経営
③ ビジョンとバックキャスティングによる戦略策定と実行力
④ 生産性向上のための人材流動化の向上
⑤ PL中心の経営からの脱却
⑥ デジタル対応力の弱さ
⑦ 事業再編の仕組み
⑧ ガバナンスとリスクマネジメントの強化

どのポイントも企業が事業を行っていくために重要なポイントばかりであるが、自社にとって何が重要なのか、何をしなければならないのか、を考える必要がある。持っている実力を発揮できていない日本企業が多くあるのだ。
本書を参考にしつつ、「何のために、何を」やるのかをあらためて考えてみるのはいかがだろうか。

作田久男(元オムロン㈱CEO、元ルネサスエレクトロニクス㈱CEO)

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