『IFRS財務諸表の 読み方ガイドブック』(「旬刊経理情報」2021年10月1日号)

書評

旬刊経理情報」2021年10月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:古内 和明氏)に『IFRS財務諸表の 読み方ガイドブック』(長谷川 茂男〔著〕)を掲載しました。







IFRSを適用する・適用を決定している日本企業は2021年9月10日時点で240社を数え、東証上場会社の時価総額に占めるIFRS適用企業の割合は50%に近づいている。2021年8月には、代表的な米国基準適用会社であったソニーグループ㈱が新たにIFRSを適用した決算を公表するなど、国際的な企業を中心にIFRSの適用企業数は着実に増加を続けている。

本書の特徴は、IFRSを適用する日本の大手自動車メーカーが公表する連結財務諸表を基礎として、IFRSの規定や考え方、日本基準との相違について解説しているところにある。本書において、当該会社のIFRS連結財務諸表を取り上げた理由は、次のとおりである。

  • 米国で上場している会社であり、米国証券取引委員会(SEC)の定期的なレビューが行われる。これらの会社は一般的に基準を厳しく適用し、緊張感をもって開示を含む財務諸表を作成している傾向にあること。
  • 過去に米国基準を採用し、IFRSに移行した会社である。米国基準では、IFRS同様に詳細な注記が要求され、注記の開示について豊富な経験があること。
  • 多くの企業と共通事項が多い製造・販売業の会社であり、他の企業の財務諸表を読むうえで参考になること。

とりわけ開示については、財務諸表本表の数値と注記との関連を明確に示すことで、IFRSが何を要求し、どのような情報を読み取ることができるかについて個別項目ごとに丁寧に解説している。

たとえば、IFRSの多くの注記項目で要求される期中の増減表や説明的記述、注記間の相互参照や過年度および翌期以降の注記との連続性は、財務諸表利用者の観点から、期中の財務状況を理解可能にする首尾一貫した説明を実現させるための要求事項であることが、本書の解説から読み取ることができる。

日本基準からIFRSへ移行する場合、多くの企業がIFRSの特色の1つである注記に関する要求事項の膨大さの壁に直面するが、本書の解説を通じて、それらの注記がどのような背景をもとに要求されているのか理解できる。日本基準においても、収益認識に関する会計基準や、時価の算定に関する会計基準の適用により開示の充実が図られており、それらの基準の基礎となったIFRSの実務を理解することは、日本基準の経理実務においても参考となると思われる。

著者の長谷川氏は、長年にわたり監査法人にて米国基準およびIFRSの最先端の実務をリードし、大学院で教鞭をとられた後、現在も国際的な企業の監査役を務められるなど、引き続き第一線で活躍されている。本書は、IFRSを開示の実務に即して、体系立てて学ばれたい多くの経理実務家の方々に、ぜひともお勧めしたい。

古内 和明(有限責任監査法人トーマツ IFRSセンター・オブ・エクセレンス パートナー)