書評
『旬刊経理情報』2026年8月20日・9月1日合併号の書評欄(「inほんmation」・評者:野間 幹晴 氏)に『連結パッケージの設計・運用の実務』谷田 政隆〔著〕を掲載しました。
今日、連結決算は単なる法定開示の手続を超え、経営戦略を支える最重要インフラへと変貌を遂げた。投資家に対する説明責任を果たすことはもとより、企業における経営資源配分を決定づける羅針盤としても、その重要性は増す一方である。しかし、連結決算という巨大なインフラの根幹を成す連結パッケージの設計・運用プロセスについては、これまで実務の細部に至るまで体系的に論じられた文献は少なかった。本書は、ブラックボックス化していた連結実務の領域にメスを入れ、グループ経営の根幹を最適化するための指針を示している。
本書において特筆すべきは、単なる個別会計基準の解釈にとどまらず、経理部門、経営企画部門、そしてシステム部門という、本来であれば分断されがちな組織間の利害関係と実務の整合性にまで踏み込んでいる点にある。組織の縦割りが進むなかで、三者の間には情報の非対称性が生じやすく、それが連結プロセスの遅延や精度の低下を招く主因となっている。本書はその構造的なボトルネックを論理的に解き明かし、部門横断的な調和をどう図るべきかという組織論的視座を提供している。
連結パッケージとは、単なるデータ収集ツールではない。それは親会社と子会社が会計情報という共通言語を用いて対話するためのインターフェースであり、本社の意思がグループ全体に浸透するための神経系である。本書はエクセルによる属人的なバケツリレーに疲弊する実務家の痛みを深く理解したうえで、制度会計と管理会計を両立させるためのシステム設計の勘所を鮮やかに解き明かしている。特に、グローバル拠点における法規制・言語・通貨の差異という境界問題に対し、実務がいかにして抗うべきかという洞察は、 現場を熟知した著者ならではの重みがある。制度上の要請を満たしつつ、いかにしてマネジメントに資するデータを生成するかという難題に対し、1つの標準モデルを提示している点は極めて画期的である。
加えて、単なる現状分析に終始せず、AIやRPA等のテクノロジーを前提とした将来のプロセス変革までを見通している点も本書の価値を高めている。特筆すべきは、本書が現場のリアリティと経営的合理性の高度な融合を試みている点だ。本書は連結パッケージの設計を、単なる事務的なタスクではなく、グループガバナンスの質を決定づける戦略的な意思決定と捉えている。この視点は、経営層が連結決算をコストではなく価値創造の源泉と認識するための第一歩となり得る。
構造的な不作為に陥りがちな連結決算業務を、いかにして戦略的なグループ経営基盤へと脱皮させるか。本書は、その問いに対する明確な解答を提示している。連結決算という迷路の出口を探す実務家のみならず、経営の高度化を志向するすべての実務家にとって必読の1冊である。本書の教示が、実務の現場における思考を深め、グループ経営の景色をより最適かつ明晰なものへと変えていくことを期待してやまない。連結決算の現場に携わるすべてのビジネスパーソンに対し、本書を推薦したい。
野間 幹晴(一橋大学大学院 経営管理研究科 教授)
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