書評
『旬刊経理情報』2026年8月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:橋本 和也 氏)に『社外役員の極意』柴田 千尋〔著〕を掲載しました。
日々の業務で「企業価値の向上」を見据える私にとって、社外役員とりわけガバナンスの要である常勤監査役等との連携は最重要課題だ。彼らの景色を知るべく手にしたのが本書である。その最大の特徴は、華やかな「光」ではなく社外役員が背負う「影」を徹底的に強調している点にある。エージェントであり現役社外役員でもある著者だからこその圧倒的なリアリティが全編に満ちている。
この重厚なテーマを身近に引き寄せているのが、架空の主人公の葛藤を描くストーリー仕立てになっているところだろう。社外役員の「そもそも」という基本から、具体的な就任プロセス、現場での仕事術までが網羅され、彼らの職責の重さやリスク感度を肌感覚で高める実践書として、非常に手に取りやすい構成になっている。
近年の不祥事や、マクロ経済が激動する米国超大型IPOの潮流を背景に、経営陣の暴走を見過ごした役員が背負う社会的責任や、取締役会での発言が持つ重みが、主人公の苦悩を通じて生々しく描かれる。この社外役員の「影」を深く理解し直視することこそが、高みを目指す者が備えるべき覚悟なのだと痛感させられる。
さらに、スキルマトリックスを単なる「形式的な◯埋めゲーム」に終わらせず、経営陣へ「耳の痛い話」を建設的に提言する実践術も示されている。その根底にあるのは、ポストに執着しない経済的独立性とプロのプライドに他ならない。エージェントとして市場を俯瞰する眼と当事者の視点を併せ持つ著者からの指摘は、役員個人だけでなく彼らを任命する経営層にとっても、形骸化したガバナンスから脱却し真の人材をどう選び活かすべきかという強いメッセージを投げかけている。
何より私が確信を得たのは、社外役員との「共闘」の必要性だ。改訂されるコーポレートガバナンス・コードでも、内部監査と社外役員との連携強化は一段と重視されていると考える。情報の非対称性に悩む彼らが真に欲する「現場の生の情報」を、実務から逆算して提供することでガバナンスの質は劇的に向上する。また、リスクとガバナンスを熟知した「内部監査人のキャリア」が、社外監査役の適性と高い親和性を持つという潮流もみえてきた。現場で培った洞察力を武器に、将来的に社外監査役として企業の意思決定を支え高みを目指すルートは、今後の確実な潮流となるはずだ。
本書のラップアップである現役社外役員へのインタビューも、さらなるリアルを引き出している。そこでは単なる「影」ではなく、「覚悟」をもち、それを乗り越えた先にある「やりがい」のリアルが示されている。先輩たちの生の声は、激動する外部環境のなかで企業価値にコミットするための確かな知恵となるはずだ。本書は、これから社外役員を目指す人やさらなる高みを出したい現任者はもちろん、経営層、高度な連携を目指す私たち内部監査人に向けた力強いエールとなる一冊である。
ガバナンスのあり方を一歩進め、真の企業価値を共に創り上げていくための、確かなきっかけとして本書が広く活用されることを願ってやまない。
橋本 和也(公認会計士 サステナビリティ・オフィサー)
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