書評
『旬刊経理情報』2026年7月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:牟禮 恵美子 氏)に『パターン別 退職給付制度変更の会計実務』三輪 登信〔著〕を掲載しました。
1998年に公表され2000年から導入された退職給付会計基準は、会計ビッグバンと呼ばれる1990年代後半からの会計制度改革を代表する会計基準である。退職給付会計は、将来見積り要素が大きく入り、年金数理計算という専門性の高い知見を必要とすること、損益の遅延認識のような会計処理も用いられることから、極めて複雑な計算構造となっている。また、退職給付制度の複雑さも加味された結果、会計基準のなかでも最も難解なものの1つとなっている。
退職給付制度の構築は、費用や負債などの財務的な影響のみならず、従業員の退職後の生活への影響といった人事労務的な観点からも考慮する必要のあるテーマである。退職給付会計の導入後、退職給付制度にもいくつかの改正が行われており、制度設計の選択肢が広がると同時に、制度変更時の会計上の取扱いには頭を悩ませる事例も多くなってきている。
本書の主題は、まさにこのような課題にフォーカスしたものである。本書では、退職給付会計の計算構造と退職給付制度の基本的な解説から始まり、制度変更の大きなポイントを示したあとで、詳細な制度変更時の論点を説明するという全体構成となっており、複雑なテーマを段階的に理解できるよう巧みに構成されている。特に、第2章では、終了の会計処理と退職給付債務増減の会計処理の全体像が示されており、一見複雑に見える制度変更の会計処理が、基本的には非常にシンプルな構造になっていることが理解できる。
また、無数にある制度変更を8つのパターンに分類し、具体例、特徴、会計処理、制度変更目的を簡潔にまとめた一覧表を明示してくれている。企業年金制度の中核を担う確定給付企業年金については、制度説明から制度移行時の会計処理や留意事項についての全体像を第3章で示したあと、ポイント制、キャッシュ・バランス・プラン、リスク分担型企業年金などの個別論点については、別の章で詳細な説明をしている。
さらに、確定拠出年金や中小企業退職金共済制度などの確定拠出型の制度に加えて、事業再編に係る会計処理や退職金前払制度といった実務上関心の高いテーマも取り扱っている。さらには、IFRS会計基準も対象とされており、退職給付会計に関する論点が余すところなく取り上げられている。
筆者は、長年退職給付会計の専門家として、企業会計基準委員会や日本公認会計士協会において制度設計に携わってきており、自らアクチュアリーの資格も有する、まさに退職給付会計分野の第一人者である。
本書は、専門性の高い内容でありながら、図、仕訳などを豊富に用いることで、幅広い読者にも十分理解できるような工夫が随所にみられ、退職給付に関心のあるすべての読者にとって有益なものとなっている。本書1冊で、会計基準から退職給付制度の基本、さらには変更時の会計処理までのすべてを網羅した、極めて使い勝手のよい良書となっている。
牟禮 恵美子(青山学院大学大学院教授)
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