書評
『旬刊経理情報』2026年7月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:青山 貴紀 氏)に『ミス・ムダをなくす有価証券報告書作成の仕組み』宝印刷株式会社・株式会社宝印刷D&IR研究所〔編〕を掲載しました。
有価証券報告書は、企業の財政状態や経営成績を投資家に伝える重要な開示資料であり、資本市場における意思決定を支える役割を担っている。その開示内容は、非財務情報の拡充などにより高度化・複雑化しており、その作成業務は、限られた期間のなかで複数部門にわたる膨大な情報を正確に取りまとめなければならない点で、負担が大きい。不備があれば企業そのものの信頼性を損ないかねず、実務の現場はミスの恐怖が常に付きまとい、緊張の連続に晒されている。
本書『ミス・ムダをなくす有価証券報告書作成の仕組み』は、こうした実務上の課題に正面から向き合い、体系的かつ実践的な解決策を提示した、待望の一冊である。編者はディスクロージャー&IRのパイオ ニアである宝印刷株式会社および同D&IR研究所。長年にわたり最前線で培われた知見が、本書の随所にきらりと光る。
第1章「有価証券報告書のミスを徹底分析」では、2020年~ 2024年の5年間の訂正報告書を対象とした調査に基づき、ミスの発生箇所を実証的に明らかにしている。第4【提出会社の状況】(特にコーポレート・ガバナンスの状況等)、第5【経理の状況】が訂正件数の上位を占める実態を示したうえで、ミスを単なる「ヒューマンエラー」で片づけず、その背後にあるデータの分断、業務の分断、コミュニケーションの分断という構造的な問題を鋭く指摘している。「なぜ同じミスが繰り返されるのか」という現場の長年の疑問に、明確な答えを与えている。
そして、本書の真髄は、第2章以降で展開される「人とシステムの役割分担」にある。近年、決算開示システムが飛躍的に進化し、データの収集・集計、数値の転記、エラーチェックといった定型作業を高度に自動化できるようになった。本書は、この飛躍的に進化した現行の開示システムをフル活用した業務の仕組み化を、現場の実務に即して具体的に描き出している。属人的プロセスからの脱却を図り、定型業務はシステムに任せ、人は出力結果の妥当 性評価や非定型業務への対応、分析と報告に集中するという役割分担を明確に示す。また、業務慣行や組織的制約、導入時のハードルといった「現場の現実」にも正面から踏み込み、実行可能性を高めている点が秀逸だ。これにより、属人化の解消、再現性の確保、品質の安定化が現実のものとなり、序章で掲げる「ミスゼロへの挑戦」が、具体的な道筋として示される。
さらに、仕組み化を前提とした人材育成の観点にも言及しており、開示業務を担う人材に求められる役割や能力まで視野に入れている。本書は、開示作成業務の現場をミスの恐怖やムダな作業から完全に解放し、経理・IR担当者が本来の仕事の価値を再発見できる、そんな希望と、すぐに現場で活かせる実践的な解決策を同時に手に入れられる一冊だ。
有価証券報告書作成業務に携わるすべての方に、ぜひ手にとっていただきたい。
青山 貴紀(かなで監査法人 パートナー イノベーション室長)
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