『経理DXの考え方・進め方Q&A』(『旬刊経理情報』2026年6月10日増大号掲載書評)

書評

経理DXの考え方・進め方Q&A 旬刊経理情報』2026年6月10日増大号の書評欄(「inほんmation」・評者:岩谷 誠治 氏)に『経理DXの考え方・進め方Q&A』ショーリ・ストラテジー&コンサルティング〔監修〕 川野 克典〔編著〕 内海 正太郎・坂東 太郎〔著〕を掲載しました。







DX(Digital Transformation)とは、データとデジタル技術を活用した企業変革であり、ITによる電子化、効率化の次のステージを目指す取組みである。すでに喧伝されたフレーズであるが、実際に自部門のDX化を進めようとしても、何から手を付ければよいのかわからないのが現状ではないだろうか。そこで、経理DXの指針となる1冊をご紹介したい。

本書の編著者である川野克典氏は、精密機器メーカーを経てコンサル業界で活躍した後、大学教授として企業経営を研究してきた経歴を持つ。過去に多くの著作があるが、どの書籍も先進の経営手法の紹介だけではなく、自らの経験に基づいて問題点と解決策を提示する実践的な内容になっている。その川野氏が顧問を務めるショーリ・ストラテジー&コンサルティングに所属するコンサルタントの内海正太郎氏、坂東太郎氏らとの知見が本書にまとめられている。

著者が経理DXにあたって重要と考えるのは「ゼロ化」と「会計知の昇華」という2つの視点だ。

「ゼロ化」とは経理部門のルーティン業務を徹底的に削減しゼロにすることを目指す取組みである。それは単に情報をデジタル化するだけではなく、個別のITツールの統合と連携で実現可能になる。

「会計知の昇華」とは、ルーティン業務から解放された経理部門の資源をより付加価値の高い活動へシフトさせることである。財務会計という守りの業務に追われ続けるだけではなく、管理会計領域の拡張によって利益増大に貢献する組織体への変革を目指す。近年のAIの進化をみればDX推進は自らの業務の消失と同義になる。コスト削減以上の視座を成員に提示できなければ組織のモチベーション維持は困難であろう。

本書は、経理・財務部門の変革を業務、人、ITの3つの側面から包括的に捉えることを目標とし、Q&A形式で編集されている。そのため、読者は興味のある論点から読み進められる。

最大の特徴は、経理DXに関わるITソフトを広範に紹介している第5章「経理DXにおけるパッケージソフトウェアの活用」にある。ERPのみならず、固定資産、経費管理から売掛金照合・入金突合といった経理関連業務ごとに主要パッケージの特徴がまとめられている。このように、具体的なパッケージを例示したうえで網羅的な記述を行っている書籍は専門書でも稀であり、執筆者陣の豊富な経験がなければ成し得ない。本誌読者の多くは経理・財務部門に属しており、IT導入業務に直接携わっていない方も多いと思われる。しかし、経理部門としてDX導入時の稟議・審査に関わる機会は多いであろう。本書を一読しておけば主要ソフトウェアについて俯瞰的な視点を持てるので、事業部門に対しても適切なアドバイスが可能になる。

本書で紹介されているソニーグループ、花王といった先進企業の経理DX事例とそれを支えるさまざまなITツールを知れば、多くの刺激を受けるとともに自社が取り組むべき新たな課題を必ずみつけられるだろう。

岩谷 誠治(株式会社会計意識 代表取締役 公認会計士)

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