書評
『旬刊経理情報』2026年5月10・20日合併増大号の書評欄(「inほんmation」・評者:宮崎 裕子 氏)に『はじめての J-SOX・内部監査・監査役等監査Q&A』浦田 信之・新保 謙輔・大杉 泉 〔著〕を掲載しました。
昨今、相次ぐ不祥事を背景に、企業の自浄能力に対する社会の眼差しはかつてないほど厳しい。ガバナンスの基盤として「監査」を機能させることは、持続的な企業価値の向上において不可欠である。
具体的には、「J-SOX」、「内部監査」、「監査役等監査」という3つの機能が、それぞれの独立性を保ちつつも情報を共有し、一体となって組織の健全性を担保する連携体制が肝要となる。単に「形式を整える」だけの作業に終始するのではなく、監査に血を通わせ、経営に活きる実効性を伴わせることは、現代の組織運営における最優先課題といえよう。
本書は、こうしたきわめて重要な役割を担う実務家が、いかにして実効性ある監査を進めるべきかを解き明かした実践的な手引書である。浦田信之氏、新保謙輔氏、大杉泉氏という、実務の最前線を熟知した3名の専門家が、形骸化した理論や法令解説に終始することなく、「実務への適用しやすさ」を最優先に構成している。全体像を俯瞰したのち、各分野をQ&A形式で詳説する本書は、初めて監査を担う読者であっても、着実な歩みを支える指針となるはずだ。
特筆すべき点は、「なぜその手続が必要か」という本質を、読者が腹落ちする言葉で示している点にある。たとえば、内部統制の運用評価とは「ちゃんと機能しているかの確認」だという言い換えや、指摘事項は「後から妥当性を説明できるよう記録を完備すべきだ」という助言などはその好例だ。こうした噛み砕いた表現は、監査の対象者に対してもそのまま説明に使える明快さを備えており、本書の大きな魅力といえる。
さらに、組織把握にあたって「最新の組織図を入手し、予定されている組織変更まで先読みする」といった記述など、現場を知り尽くした者ならではの具体的かつ即効性のある実務論が随所に散りばめられている。
また、随所に滲む「監査の真髄」にも触れておきたい。往査において現場の回答を鵜呑みにした安易な指摘は、事実誤認を招き、監査への信用を損ないかねない。大切なのは、事実を冷静に確認し、往査の段階で現場やマネジメント層と改善の方向性について認識を揃えることである。ここには小手先の技術ではない、実務家としての矜持と重みが宿っている。
各章末の「参考書籍」からも著者陣の人間味と知的な奥行きが感じられ、思考の幅を広げるうえで格好のガイドとなっている。
本書は、実務担当者のドリルとしてだけでなく、体制整備を急ぐ経営陣や「経営目線」を養いたいコーポレート部門にとっても、有益な全体像を提供してくれる。たとえば「リスク」という言葉を構造的に捉え直す視点は、社外役員を含む経営層が組織を理解するための「共通言語」にもなるだろう。監査を守りから攻めへ転じる視座を考える点にも、真価がある。
単なるチェックリストを超え、組織を前進させるための確かな判断基準を持つための指針として、すべてのビジネスリーダーに一読を勧めたい。
宮崎 裕子(弁護士 GIT法律事務所)
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