『経理×AI入門』(『旬刊経理情報』2026年4月10日号掲載書評)

書評

経理×AI入門 旬刊経理情報』2026年4月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:葛西 一成 氏)に『経理×AI入門』松岡 俊〔著〕を掲載しました。







ChatGPTやGemini、ClaudeといったAIツールが急速に普及するなか、AIを経理実務にどう活かすかを体系的にまとめた実務書はまだ少ない。本書はその数少ない1冊であるが、単なるAIの解説にとどまらず、著者の経理実務に対する深い理解と洞察がふんだんに織り込まれており、これまでAIに馴染みのなかった方にとっても実務に役立つ内容となっている。

本書では、まず生成AIの特徴と経理業務との関係が述べられている。著者は「非構造化データとの格闘こそが経理の真の課題」とし、メールのやり取り、紙媒体やPDFの契約書や請求書、社内チャットの履歴といったデータにこそAIが力を発揮する余地があると説く。そして、AIを活かすためには、経理業務の本質的な課題への理解が欠かせないことを認識させられる。この部分が丁寧に解説されているがゆえに、AI活用の枠を超えて、経理実務そのものを見つめ直すきっかけにもなる。

そして本書の中心である第3章では、18のAI活用事例が展開される。メール対応の高速化、増減分析コメントの生成、株主総会の想定問答集作成、新リース基準対応のための契約書レビューの自動化。これらの事例を種類別・場面別にわかりやすく解説しているため、自分が行っている業務に近い事例をみつけてすぐに実践できる。経理担当者であれば、思わず「これは実務で使える」とページに付箋をしたくなる場面が何度もあるはずだ。さらに注目すべきは、著者自身が現職で実践している取組みだ。これは「第4営業日の決算締めと同時に予算・実績の対比をAIに分析させ報告レポートを生成する」というもので、月次決算の速報性という長年の課題に対する貴重な実践例として非常に参考になる。

こうした事例の1つひとつに説得力があるのは、著者が自らの経験と丁寧な検証を重ね、しっかりとした結論を導いているからにほかならない。

そもそも個別の業務へのAI適用は、AI技術そのものの急速な変化と多様性もあり、一般的なマニュアルをみればすぐにわかるような代物ではない。本書に示されているのは、経理の第一線で働く著者がプロとして行った綿密な検証と専門的な判断の成果である。

それにしても、「経理×AI」という限られたテーマでありながら、18もの事例を解説した充実ぶりである。にもかかわらず、本書は決して冗長ではなく、わかりやすい文章で筋道が通っているから、最後まで一気に読み進められる。そして、いずれの事例も経理の現場で日常的に発生する業務を扱い、それをAIでどう効率化するかを具体的に解説しているため、実務に携わる者にとっては一層読み応えがあるはずだ。

最後に、本書を読み終えて確信したことがある。経理実務でのAI活用の鍵は、特別なITスキルよりも「この非効率な業務をどう改善できるか」という業務への深い理解にある。経理の実務に携わる1人として自信をもって薦められる本書を、ぜひ手に取っていただきたい。

葛西 一成(株式会社IS経理事務所 代表取締役)

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