書評
『旬刊経理情報』2026年3月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:島村 健 氏)に『排出量取引の実務ガイド』弁護士法人Y&P法律事務所 〔編〕を掲載しました。
排出量取引とは、政府が、企業に対し、環境負荷物質(たとえば、CO2)の一定期間における排出可能量(排出枠)を配分するとともに、当該期間において割り当てられた量を超えて当該物質を排出しようとする企業と、当該物質の排出実績が割り当てられた排出枠を下回り排出枠に余剰が生じた企業との間の取引を許容する制度のことをいう。EUに遅れること約20年、日本でもようやく2026年度から、法律上の制度として排出量取引が導入されることとなった。本書は、経産省において排出量取引制度の制度設計に関与した弁護士らが、排出量取引制度の導入の経緯や、制度の内容をわかりやすく解説するものである。
まず、本書のⅠ・Ⅱでは、CO2の排出に「価格」をつける「カーボンプライシング」の意義と、その導入の背景について説明がなされる。続くⅢ・Ⅳにおいて解説される排出量取引制度と化石燃料賦課金は、いずれもカーボンプライシングを導入しようとする制度である。これらのうち排出量取引制度に関していえば、制定時(2023年)のGX推進法には、2033年度からCO2排出量の多い発電事業者を対象として有償で排出枠を配分するということが規定されていただけであった。同法の2025年改正により、排出枠の割当方法や取引に関する規定が置かれることになったのである。対象事業者の範囲、排出枠の割当方法等、制度の詳細については、政省令や実施指針によって定められる。本書執筆時点で(本稿執筆時点でも)、それらは制定されていない。しかし、本書では、制度のあり方を検討してきた審議会での議論を踏まえた解説がなされており、本書を読むことにより、排出量取引制度がどのような姿になるのかを把握することができる。
改正GX推進法により、義務的な排出量取引が2026年4月に開始されることが決まった。過去3カ年度のCO2排出量が10万トン以上の事業者は、政令で定める方法によりCO2の「排出目標量」を設定し、経産大臣に届け出なければならない。この排出目標量を基礎として排出枠が無償で割り当てられる。事業者は、排出実績量に相当する排出枠を保有する義務を負う。経済産業大臣は、翌年度の1月31日に事業者の排出実績量に相当する排出枠を償却する。このしくみは4月にスタートするので、前記の規模の排出事業者は、この制度の詳細を速やかに把握する必要がある。もっとも、この制度にかかわるのは多量排出事業者だけではない。前記事業者から依頼を受けて取引を行う金融機関等、あるいは、これまでにカーボンクレジット等の市場取引経験を有する者も、新たに設けられる排出枠取引市場の取引参加者として予定されているからだ。
本書の最終章Ⅴ「ストーリーで見る排出量取引制度」は、制度の対象となる会社において、制度開始に備えて社内の各部署がどのような準備をしておかなければならないのかということを、ドラマ仕立てのストーリーで読者に伝えようとしている。とても読みやすいので、読者は、Ⅰ・Ⅱの後にいったんⅤを読んでから、Ⅲ・Ⅳへと読み進んでもよいかもしれない。
島村 健(京都大学 教授)
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