『移転価格×グローバル・ミニマム課税―税務コスト最小化の新戦略』(『旬刊経理情報』2026年2月10日号掲載書評)

書評

移転価格×グローバル・ミニマム課税―税務コスト最小化の新戦略 旬刊経理情報』2026年2月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:清水 太一 氏)に『移転価格×グローバル・ミニマム課税―税務コスト最小化の新戦略』岸本 真〔著〕を掲載しました。







本書『移転価格×グローバル・ミニマム課税 税務コスト最小化の新戦略』は、国際税務の現場を悩ませる二大テーマを、単なる並列解説ではなく「同時に走る制度」として結び付け、実務の意思決定に使える形へ落とし込んだ1冊である。

移転価格とグローバル・ミニマム課税(ピラー2)は、それぞれ単体でも難解であり、担当者は個別対応で手一杯になりがちである。

しかし本書は、利益配分の設計、文書化、税務調査対応という移転価格の実務が、ピラー2の国別実効税率(ETR)やトップアップ税の発生可能性とどのように連動するかを、論点ごとに整理して示す。結果として、読者は「いま何を変えると将来の税務コストが動くのか」を具体的につかめるのである。

特にポイントとなるのは、移転価格を「過去の取引を説明するための守りの制度」ではなく、ピラー2時代の税負担を左右する戦略変数として位置づけている点である。

これにより、方針の微修正がどの国のETRに効き、どこで追加課税リスクが立つのかという、経営判断に直結する問いが立ち上がる。

本書は、その問いに対し、誤解しやすい落とし穴と判断の勘所を、平易な言葉で示す。中堅企業が限られたリソースで「やるべきこと」を選別するうえで、実務の地図として機能するはずである。

さらに、巻末付録の『制度別対応状況マトリクス』に関しても取り上げておきたい。巻末付録全体も非常によくまとまっており、実務における即戦力となることは間違いないが、特にこの『制度別対応状況マトリクス』では、移転価格とグローバル・ミニマム課税のみならず、国際課税の現場で特に問題となりがちなCFC税制とPE認定を加えた4つの国際課税に係る論点について、必要な知識と参照すべき法令等を1つの表としてまとめている。

制度ごとの課税判定基準・文書等作成義務と参照すべき情報に加えて、実務で共通化可能な作業や情報収集のポイント等までまとめられているため、4つの制度に係るリスクを横断して点検できる。また、各制度で共通して活用できる社内文書も一覧として掲載され、実務を「社内で回す」ための具体像が得られる。結果として、本書は理論書でも手引書でもなく、複数制度を束ねて使える、これまでにない観点の実務本となっている。

国際課税対応は、罰則回避のためのコストではなく、ガバナンスと説明責任を可視化し、取引先・金融機関・課税当局からの信頼を積み上げる投資である。本書は、その投資を最小の負担で最大の効果へ導くための道筋を提供する。

海外子会社を持つ企業の税務担当者はもちろん、経理・法務・事業部門を巻き込んで体制を組みたい管理職、助言を行う専門家にとっても、手元に置く価値が高い。

読み進めれば、社内説明資料の骨格がそのままできあがる感覚を得られるはずである。制度改正の波が重なる今こそ、国際税務の現場における指針として手元に置きたい1冊である。

清水 太一(税理士 国際税務アライアンスメンバー、一般社団法人租税調査研究会 主任研究員)

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