書評
『旬刊経理情報』2026年2月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:小泉 明大 氏)に『連結会計システムの導入マニュアル』飯塚 幸子・角野 崇雄〔著〕を掲載しました。
規模にかかわらずグループ経営を課題とされている会社は多いが、連結決算業務は専門知識を要するとのイメージが強く、誰にでも任せられる仕事ではないと考えられがちだ。結果、熟練者に依存し属人化しやすく、引継ぎが難航する ―多くの現場でみられる光景である。エクセルでの連結業務は便利だが、関数やリンクが複雑化して作成者しかわからないブラックボックスとなる。担当者が異動や退職となれば、急に困る。一部の担当者で回している業務がゆえに対応が後手に回る。こうした悪循環や構造的課題を断ち、連結業務を組織的に分業可能なプロセスへ再設計するための実務手引が本書である。グループ経営管理において、連結情報の精度とスピードは企業価値を左右する。本書は、その基盤を整える「現場の設計図」である。
本書は、連結会計システムの導入詳細をフェーズ別に整理し、失敗しやすいポイントと対策を具体的に示す。章ごとに図表を多用し、複雑な論点を視覚的に把握できる工夫も秀逸である。特に、マスタ設定やデータ品質の検証工程を標準化するための指針は、導入プロジェクトの成否を分ける実務的な知恵である。さらに、導入以降も引き続き、まずエクセルで連結精算表を作ってからその答え合わせとして新システムを使う運用に陥らないために ―といった、導入事例の現場を知り尽くした著者ならではの勘所や知見が惜しみなく随所に披露されており、単なるシステム論にとどまらない。エクセルとの比較や移行時の注意点の丁寧な解説など、現場で即役立つ内容である。
連結情報は経営層、投資家のみならずさまざまなステークホルダーに届けられる成果物である。分業化と標準化は、報告の質と内部統制の強化に直結する。引継ぎや教育も容易になり、決算早期化にも寄与する。近年はAIやクラウドを活用した連結支援が進み、検証・照合の自動化は現実解となった。本書は、その潮流を踏まえ、前提となるデータ品質と設計の勘所を与える。将来、AIエージェントが連結業務を担う時代が来ても、基盤設計を誤れば自動化は機能しない。本書はその「土台」を築くための必読書である。
著者の飯塚氏は「連結の女王」と称される第一人者として広く知られ、長年にわたり多くの企業の連結決算業務を指導されている。角野氏は監査業務からM&AやIPO支援、さらにはシステム導入に至るまで豊富な実務経験と卓越した現場感覚を有しておられる。著者両名は、理論と実務の両面から連結会計の現場を知り尽くしており、両氏の知見が結晶した本書は、他に類をみない実務書である。
連結決算業務の効率化や標準化を目指すすべての企業にとって、本書は最良のパートナーとなるはずだ。ぜひ多くの現場で活用されることを願ってやまない。経理・財務・経営企画の実務家はもちろん、経営者や専門家にもお薦めしたい。1社に1冊、備え置く価値がある。現場を前に進めるためのまさに「決定版」といえるだろう。
小泉 明大(株式会社オービックビジネスコンサルタント執行役員・公認会計士)
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