『投資事業有限責任組合の会計・税務Q&A』(『旬刊経理情報』2025年12月20日号掲載書評)

書評

投資事業有限責任組合の会計・税務Q&A 旬刊経理情報』2025年12月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:西村 和朗 氏)に『投資事業有限責任組合の会計・税務Q&A』遠藤 諒平〔著〕を掲載しました。







会計・税務において、ファンド形態に精通する書籍はけして多くない。なかでも投資事業有限責任組合(以下、「LPS」という)に特化したものを見つけることは困難で、匿名組合スキーム、特定目的会社スキームなど、さまざまなファンド形態についての解説本のなかに、部分的に記載されていることのほうが多かった。

また、LPSに焦点を当てた書籍がないわけではないが、多くは法務などを含んだ包括的なものであり、会計・税務を中心とした知識を得るには足りない。本書はより深いレベルでの理解を求める者にとって、有効な1冊となり得るだろう。

実務ではさまざまな場面に直面する。近年、一般の事業会社のなかにもLPSへ投資するケースが増えているが、前例をみつけること自体が困難で、集められる事例の数にも限りがある。実務において取扱いに迷った際、会計・税務上どのような処理が正しいかを調べるには、会計基準や税法の条文を読み解くしかなく、理解が難しいものについては、専門家であっても同業者に見解を求めたり、インターネットで収集した情報のなかから正解を組み立てるなど試行錯誤を繰り返したりすることになり、情報量の少なさという壁に当たるのが常であった。

その点、本書は壁を破る突破口として、素晴らしい機能を果たしている。著者は日本政策投資銀行への出向経験があり、現在も税理士法人内でLPS業務に携わり続け、実務のなかで幾度となくLPSの会計・税務に関する疑問や問題に直面している。経験則に基づいた、具体的な解決策を知り得る人物である。

LPSの立場、LPSへ投資する投資家の立場、LPSから投資を受ける会社(主にベンチャー企業)の立場、この3つの立場に分けて章が構成されているため、それぞれの視点からみた疑問と対処法が非常にわかりやすく書かれている。また、「組合員の追加加入があった場合の組合員ごとの決算書」など計算が複雑になり得る論点については、具体的な数字や計算表を用いて説明がされているなど、論点に応じて理解するための工夫もされている。LPSの会計規則改正、インボイス制度への対応など近年の制度改正についても解説がなされている。

本書は実務経験をもとに、具体的な解決を提示してくれる。本書記載の事例と同様の案件が生じた際には模範解答となり、解決へのヒントを与えてくれる。LPSの会計・税務に特化した書籍が発売されたことは、明確な答えにたどり着くことが難しく多大な時間を消費していた人々にとっては非常に喜ばしいことである。私自身ももっと早くこの本に出会えていれば、実務上の苦労を軽減できたシーンがあったように思う。なお、これらの内容は実務で想定されるさまざまな疑問点に答えるQ&A方式で綴られている。必要な情報を適宜抜粋して参照することが可能であり、LPSの会計・税務業務の辞書的な使い方も期待できる。LPSに関わる事業会社の実務担当者だけでなく、会計・税務の専門家においても、ぜひ虎の巻として手元に置いておくことをお薦めしたい。

西村 和朗(西村和朗公認会計士事務所 代表)

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