書評
『旬刊経理情報』2025年12月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:飯田 裕子 氏)に『利用規約作成のポイント』中山 茂・古西 桜子・菅野 邑斗〔編著〕を掲載しました。
「利用規約」はサービス提供時に、すべてのユーザーと同一内容の契約を行うことができるというメリットから、最近は消費者向けサービスだけでなく、企業向けサービス等でも広く使われている。一方で、不適切な規約設定は、事業運営に支障をきたすだけでなく、利用者からの信頼低下や炎上、消費者団体からの訴訟提起など、深刻なリスクを招くおそれもある。そのため、近年では利用規約の適切な作成と運用が、多くの企業にとって重要な課題となっている。
加えて、利用規約の作成は法務部門が担当することが一般的だが、運用については法務に限らず他部門の利用規約への理解が不可欠である。特にSaaSやアプリ等の利用規約では、クレーム客・利用規約違反顧客への対応や売上計上、返金対応等の場合も利用規約の記載をもとに対応を行う必要がある。そのため、経理やカスタマーサクセス等の部門と法務が連携し、利用規約の内容を事前に擦り合わせておくことや、業務に関わる部分を把握しておくことの重要性が増している。
本書はそのような昨今の状況を踏まえ、利用規約のなかでも、ITサービスにおける作成・運用の要点について、丁寧に解説されている。利用規約のサンプル条項が掲載されており、その項目ごとに詳細な説明が記載されているため、各条項の解説を読むことで、自社に必要な条項の取捨選択が可能になるであろう。その結果、既存の規約を運用する際に発生する「なぜこのような条文があるのか?」、「この条文を削除したいが、本当に削除してしまって大丈夫か?」といった疑問も、本書を読むことで即座に解消される。
さらに、実務担当者を悩ませる点である「利用規約を下までスクロールしないと、同意ボタンを押せない仕様にすべきなのか?」、「利用規約の変更を即日適用してよいのか?」等といった、利用規約に対する同意取得の方法や、利用規約を不利益変更したい場合等の運用上の注意点にも具体的に解説がある。そのため、改定通知の文言をどうすべきか、改定までのスケジュールや通知方法をどうすべきか等、実務に直結するヒントが豊富に得られる。
法務以外を専門とする担当者が読む場合、専門性の高い書籍がゆえに難解に感じる部分もあるかと思うが、第1章(ページ程度)を読むだけでも、利用規約のリスクの勘所を手軽に把握できる。また、第4章と第5章ではサービス特有の留意点や関係法令の解説があるため、一般論の学習にとどまらず、すぐに自社の規約に反映可能な知識が得られる。類書と比べて、法的根拠を初学者でも確認しやすいような構成になっており、目の前の業務を進めたい場合は本文のみで十分理解が及び、さらに学習を深めたい場合には注釈にて紹介されている判例、行政のホームページ、他の書籍等を参照することで、専門性を磨くことも可能である。
「利用規約作成のポイント」というタイトルではあるが、作成に限らず、利用規約を根拠にサービス提供に携わるすべての人にとって、示唆に富む1冊である。
飯田 裕子(LAPRAS株式会社 法務部門責任者)
記事掲載書籍をカートに入れる