書評
『旬刊経理情報』2025年12月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:三浦 太 氏)に『カレンダーで読み解く IPO実務指南書〈新装版〉』株式会社ラルク〔監修〕/鈴木 博司・加藤 陽一〔編著〕を掲載しました。
IPOを語る本は過去に溢れるほど出版されてきた。公認会計士や証券マンでなければIPOは初めての方ばかりなので、そのような読者層に初心者本や入門書ばかりが出版され、内容は似たり寄ったりで取るに足らないものが多い。さらに、優先順位や対応時期が不明で、IPOの重要論点にはほとんど触れず、深掘りしていない。
そのようななか、本書はIPO実務のハイエンドな内容を含んでいるが、IPO準備を始めたばかりの読者でも体系的に専門用語もわかりやすく説明されている力作である。
また、書名にもあるとおり、IPO準備期間を月間カレンダー的に区分し、それぞれの期間に準備すべき事項を示し、具体的な対応策も丁寧に説明され、進捗管理に役立つ構成が大きな特徴といえる。
IPO準備は遅すぎても早すぎてもよくなく、タイミングが一番大事であるが、その準備時期と対応策を明らかにした解説はきわめて実践的である。IPOを実際に進めるとき、何をいつすべきか、どう優先順位をつけるかが手に取るように実務的にわかる構成で非常に読みやすい流れになっている。
編著者の鈴木博司氏は新興市場黎明期の2000年頃からIPO関連で何かと交流のある兄貴分である。もう1人の加藤陽一氏は、監査法人から野村證券引受審査部に出向した際、筆者が監査法人側責任者としてリレーションの担当をして以来、お互いIPO実務で20年以上切磋琢磨してきた仲間であり、IPOの多面的な専門家として大変頼りになる存在である。
そんな彼らが出版するなら間違いないと直感したが、念のため実際に拝読したうえで、やはり太鼓判を押せる内容であった。座学的に読む教科書というよりは、IPO実務を進める際、ふと悩んだ時点で手に取ると合点がいくヒントがそこにあり、強い味方になる指南書といえる仕上がりである。
本書はIPO実務に携わるすべての方に必ず参考になる内容が満載されている。著者たちの本業のIPOスキルを惜しげもなく詰め込み、本文のみならず、30のコラム、巻末の用語集も併用することで、専門家同士がディスカッションするIPOの重要論点やIPO直前・直後のきめ細かい実務までもがやさしく説明されており、類まれである。
個人的には、ラルクの今後のIPO営業に響かないかと陰ながら心配するほどノウハウを露出していると感じた。ただ、ラルクのIPOスキルが日進月歩で進化・深化している現場を身近でみてもいるので、筆者の心配は杞憂に終わるであろう。
創業以来、ラルクのIPO支援は顧客向けに徹し、ノウハウは門外不出のはずだが、IPO業界の健全な発展に寄与したい想い、IPOコンサルの雄としての自信から今回の書籍化実現に至ったと推察する。
ぜひご一読あれ! 特に、これからIPO準備をスタートアップする企業の経営者や幹部の皆さん、そしてIPOに携わる多くの人にも手に取っていただきたい1冊である。
三浦 太(日本IPO実務検定協会試験委員長・公認会計士)
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