『ポイントサービス3.0―エンゲージメント時代のポイント戦略』(『旬刊経理情報』2025年10月20日号掲載書評)

書評

ポイントサービス3.0―エンゲージメント時代のポイント戦略 旬刊経理情報』2025年10月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:野口 健介 氏)に『ポイントサービス3.0―エンゲージメント時代のポイント戦略』岡田 祐子〔編著〕を掲載しました。







今から約20年以上前に著者の岡田さんと初めてお会いしたときの会話のなかで、今も強く記憶に残っているのは、実はポイントサービスに関することではなく「日本の高度成長期を謳歌した方がトップの企業では、本質的な顧客志向、顧客サービスはなかなかできないものですよ」というお言葉だった。現在は失われた30年といわれる経済状況の最中、多くの商品、サービスがコモディティ化し、本質的な顧客志向が求められる時代となった。長年にわたりポイントサービスという観点から、企業と顧客の動向をみつめ、それをまとめた本書はポイントサービスだけでなく、マーケティングに関わる人間にとっては必読の一冊となっている。

ポイントサービスが世に普及し出した時期をポイントサービス1.0と位置づけ、その後のロイヤルティーサービス、CRMを中心とした2.0、そして購買行動だけでなく、顧客とのエンゲージメント創造を指向して将来のあるべき姿を示唆する3.0と、時系列にポイントサービスを定義しているのは、長らく専門コンサルティングに従事した著者ならではの切り口となっている。業界別にも、ポイントサービスの現状と課題が細かく整理されており、該当する業界のみならず、どの業界においても現場で大いに役立つものと思われる。

そして、本書の特筆すべき特徴の1つが、実際のポイントサービス導入企業への豊富な取材、インタビュー記事である。各企業がどのようなポイントサービスを実施しているかという概観情報だけでなく、導入の背景、込めた想い、そして実施の評価と改善など、施策に秘められた本質を生の声を交えて垣間みることができる。マーケティングの領域では、時として小手先の戦術的施策に陥ってしまい期待したような成果を出せないケースは多数ある。そういった点でも、現場のリアルな実態に多面的に触れることは、ポイントサービスをはじめとしたマーケティング従事者には貴重な機会になるはずだ。

日本においてはマーケティングは狭義に捉えられる機会が多い。しかし、私自身はマーケティングは、経営そのものだと考えている。その意味では、マーケティング施策の1つであるポイントサービスも経営の重要な一部となる。特に販管費として消費される広告宣伝費などと違って、ポイントサービスは継続して提供され、内容によっては売価や利益にも大きな影響を与える存在である。そのような性格を持つポイントサービスを実践するにあたっては、会計的な知識は必要不可欠であり、制度設計と大いに関連するものである。本書では、そのような観点の情報も網羅されており、実践に活かせる実務書としての役割も担える内容となっている。

本書は知識を身につけるだけの「知識本」ではなく、実践に活かせる「知恵袋」となっている。経験や知識は、未来に向けてそれらを活かしてこそ意味を持つものである。ポイントサービスを通じて経営、マーケティングの実務に従事される読者の参謀役となるであろう本書は、つねに自身の傍らに置いておきたい存在である。

野口 健介(一般社団法人日本リテンション・マーケティング協会 理事)

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