書評
『旬刊経理情報』2025年10月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:遠藤 諒平 氏)に『中小・中堅企業でも成功する グループ通算制度導入プロジェクト』足立 好幸〔著〕を掲載しました。
2022年4月より開始されたグループ通算制度は、従来の連結納税制度に代わる新しいグループ課税制度として導入されたものである。連結納税制度は、導入や運用にかかるコストが高く、制度を利用する企業は大企業に限られる傾向が強かった。これに対し、グループ通算制度では、各法人が自社の所得や税額を個別に計算・申告する方式へと改められたことにより、制度の使い勝手は向上したといえる。持株会社体制を採る企業や複数の子会社を有する中小・中堅企業にとって導入検討の現実味が増し、適用可能性が広がった点は大きな変化である。
本書は、グループ通算制度を単なる制度解説にとどめず、「どのように検討を進め、社内プロジェクトとして導入に至るか」という具体的なプロセスに焦点を当てている点に特色がある。制度を理解するだけではなく、導入検討から実際の運用に至るまでのステップをストーリー仕立てで描き出しており、読者が自社の状況に置き換えながらイメージできるよう工夫されている。形式的な記載にとどまらず、実際のプロジェクトの進め方を体感できる点は、実務担当者にとって大きな助けとなろう。
著者である足立好幸氏は、グループ通算制度に関する第一人者として広く知られ、関連書籍や専門誌への寄稿も多数に上る。私自身も、実務において足立氏の著作に幾度となく助けられてきた経験があり、本書においても現場目線に立脚した内容が随所に表れていると強く感じる。
本書は、①プロジェクトイメージ→②制度検討→③採否の決定→④導入、という4つのステージに沿って構成されているため、制度導入に至るまでの検討事項を段階的に理解することができる。特に、自社がグループ通算制度を適用するのに「向く会社・向かない会社」であるかどうかは、前述の ①プロジェクトイメージや②制度検討の記述を通読することで、おおまかなイメージをつけられるのではないかと思う。また、導入に伴うメリットのみならず、事務負担の増加やシステム導入の必要性(税効果会計や税金計算への対応)といったデメリットについても具体的に触れられている。実務上も、導入後の事務負担の増加やシステム活用、子会社とのスケジュール調整等が課題となることが多く、経理人材が不足している昨今においては、検討段階から当該申告を運用できる経理人材を採用するのか(あるいは外注化するのか)といった点をあらかじめ想定しておく必要がある。
わが国においては、今後M&Aの活発化が一層進むことが想定される。そのような状況下で、グループ通算制度を活用してグループ全体の課税所得を適切に圧縮・管理し、グループ経営の効率化を図ろうとする動きは、今後ますます広がりをみせるであろう。
かかる状況下において、本書はグループ通算制度を中小・中堅企業が導入を検討する際の道筋を具体的に示す実務的な指針となる一冊である。企業の経理担当者はもとより、顧問先に対して制度導入を提案する会計事務所職員にとっても有意義な内容といえよう。
遠藤 諒平(Oneアカウンティング税理士法人 公認会計士・税理士)
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