書評
『旬刊経理情報』2025年8月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:秋葉 賢一 氏)に『実務解説 新リース会計基準のすべて』有限責任監査法人トーマツ〔編〕/神谷 陽一・宗延 智也〔著〕を掲載しました。
企業会計基準委員会(ASBJ)が2024年9月に公表した企業会計基準34号「リースに関する会計基準」(以下、「新リース会計基準」という)およびその適用指針は、従来のリース会計基準を全面的に置き換えた。特に大きな変更点は、これまで借手においてオフバランス処理されてきたオペレーティング・リースを、原則として貸借対照表上に「使用権資産」と「リース負債」として計上するオンバランス化である。
新リース会計基準は、会計処理の変更の準備段階として、契約内容の洗い出し、リースの識別、リース期間や割引率の設定といった作業にとどまらず、その見直しにあたっては、財務戦略、ITシステムや業務プロセスにも影響を及ぼし得る。このため、2027年4月からの強制適用に向けて、企業は多岐にわたる対応を着実に進める必要がある。
このような状況下においては、本書のような実務に焦点を当てた解説書が必要である。著者は、新リース会計基準の開発に携わり、また、大手監査法人において品質管理を担当しているため、本書は、現場で役立つ実務書として、単なる基準の逐条解説にとどまらず、実務上の論点を掘り下げている点が特徴である。
たとえば、新リース会計基準の適用に際して最も判断が求められる「リースの識別」については、第4章で詳述している。この複雑さは、多くのサービスのうち、賃借サービスのみを使用権とみなすという前提に起因するが、実務では現実的な対応が必要である。本書では、38頁にわたり、図表や設例を多く用いて、実践上の手助けとなるよう配慮している。
また、識別されたリースについて、使用権資産とリース負債を認識・測定するにあたり、延長・解約オプションなどを考慮してリース期間を見積ることも、新リース会計基準における新たな実務的論点である。本書の第6章第2節では、17頁にわたる効果的な図表や設例によって、実践的な適用を意識した内容となっている。
こうした見積りは、その後、リース負債の計上額を見直すことにつながる可能性がある。第6章第9節では、図表や設例、仕訳例を示しながら、理解を深めるための工夫が凝らされている。
さらに、本書では、各章の最後の節において、新リース会計基準の実務上の論点を、IFRS16号「リース」との比較を交えながら解説している。新リース会計基準は、IFRS16号の主要な定めを取り入れつつも、簡素で利便性の高い基準を目指している。本書では、IFRS16号と整合する点のほか、相違点なども示しているため、IFRS任意適用企業においても役立つことが期待される。
もちろん、新リース会計基準がIFRS16号と異なる定めをしているもの、たとえば、サブリース取引(第8章)やセール・アンド・リースバック取引(第9章)の会計処理などについても、詳述されている。
本書は、企業の経理担当者はもとより、公認会計士やコンサルタントなど、幅広い実務家にとって有用であるとともに、新リース会計基準を体系的に学びたい学生等にとっても、よい学習教材となるであろう。
秋葉 賢一(早稲田大学大学院会計研究科教授)
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