『海外子会社の監査プログラム―すぐに役立つ英和対照チェックリスト』(『旬刊経理情報』2025年7月1日号掲載書評)

書評

海外子会社の監査プログラム―すぐに役立つ英和対照チェックリスト 旬刊経理情報』2025年7月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:箱田 順哉 氏)に『海外子会社の監査プログラム―すぐに役立つ英和対照チェックリスト』田中 達人〔著〕を掲載しました。







著者の田中達人氏は、ベトナム、タイ、中国、米国に駐在して監査業務に従事し、多くの日本企業をサポートしてきた海外子会社監査の第一人者である。また、『リスクマネジメントと内部監査』(同文舘出版、2012年)等を執筆し、理論と実務を兼ね備えたプロフェッショナルでもある。

内部統制実施基準改正、企業内容開示府令改正等に示されるように、コーポレート・ガバナンスや内部統制の改革を目指す最近の制度改正では、監査制度を欧米並みの水準に引き上げる諸施策が進められている。監査人と並ぶ三様監査の担い手である監査役・監査委員・監査等委員と内部監査人の監査の実効性の向上が企業には求められている。

多くの日本企業は海外子会社を擁して企業グループとして事業を展開している。海外子会社の監査は日本企業の監査にとって最も難しい分野である。文化、宗教、制度、慣習、そして言語の違う国で、地理的・時間的制約のなかで、グループ本社経営者はもとより現地の経営者や株主等にも評価される監査成果をあげることは至難の業であるからだ。

特に日本人が海外で監査する場合、言語の壁が立ちはだかっている。多くの日本企業では、海外子会社経営において英語を共通言語としているが、海外子会社で日本語のわかる人は日本から派遣された役職者くらいで、事業運営は現地の社員を頼りにしていることが多い。

この難しさに対処するためには周到な準備が不可欠である。何のために監査に行くのかという監査目的を明らかにして主な監査項目や関係者への質問、書類の閲覧等の監査手続を事前に検討することが必要である。

検討の結果、監査を実施する監査項目について、監査手続を指示する監査プログラムを現地に行く前に用意することができれば、効果的な監査を行うことができる。また、現地の監査補助スタッフを監査チームに入れる場合、彼・彼女たちに明確に指示を出すために英語版を用意することも必要になる。

監査結果を現地の役職者に説明する場合も、監査プログラムの英語版があれば、問題点の指摘・報告を英語で説明しやすくなる。

海外子会社を展開する企業グループの経営テーマは広がりをみせており、本書でも取り上げているコンプライアンス、サステナビリティ、人的資本、サプライチェーン、情報セキュリティ等々、マネジメントが対処すべき領域は多方面にわたる。

海外子会社の監査を行う監査役・内部監査人は、常にアンテナを高く張り、最新の課題にも対処することが求められる。

本書は、多くの日本企業の海外子会社で監査が必要となる監査項目の監査プログラム・監査指示書を英和対照のチェックリストとしてまとめている。最新のテーマもカバーしていることから、監査役・内部監査人は個々の監査で重点とする監査項目のページをみて監査プログラムを検討することができる。往査日数も限られるなかで海外子会社監査を支障なく遂行するためのマニュアルとして活用することをお勧めする。

箱田 順哉(公認会計士)

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