書評
『旬刊経理情報』2025年6月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:安田 雄飛 氏)に『M&Aとグループ内組織再編成の税務』佐々木 みちよ・齋藤 洋祐〔著〕を掲載しました。
本書の著者である佐々木みちよ氏と齋藤洋祐氏は、数多くの組織再編案件において税務アドバイザリー業務を担当されてきた税理士である。税制や国税当局の取扱いの解説にとどまらず、両氏の豊富な実務経験に裏打ちされた知見をもとに、実践的かつ現場目線で、M&Aとグループ内組織再編における税務の全体像を明快に解説している点が、本書の最大の特徴である。
M&A・組織再編成の税務においては、税制そのものの複雑さに加え、幅広い税目に関する知識が必要となる。そのため、従来の実務書では、情報が網羅的であればあるほど、実務上の具体的な課題や全体像がかえってつかみにくいと感じられることも少なくなかった。この点、本書においては、税務上の幅広い取扱いに触れながらも、常に具体的な事案への当てはめを意識して解説がなされている(しかもその解説が、簡潔で図表なども工夫されており、非常にわかりやすい)ため、読者が、実務上検討すべき重要なポイントを中心に全体像を効率的に把握することができる。
本書は2章構成となっており、第1章では「M&Aの手法と税務」と題し、M&Aにおける主要な手法について、所得に対する法人税や所得税の課税のみならず、消費税、不動産取得税、登録免許税等の消費・流通に対する課税も含めた税務上の取扱いが、売手・買手・株主といった当事者別に体系的にまとめられている。特に注目すべきは、冒頭に示されている「スキーム検討の着眼点」である。そこでは、スキームの比較検討にあたって実務で考慮される各手法の特徴について多角的に解説したうえ、「被買収会社の全事業を取得したい場合」、「被買収会社の簿外債務の金額が大きい場合」、「被買収会社の一部の事業のみを取得したい場合」、と「買収資金を抑制したい場合」いった具体的なニーズに応じた選択の視点が示されており、実務的な示唆に富む。
第2章では「グループ内組織再編成の税務」をテーマに、M&A後の再編プロセスにおける税務上の課題について深掘りされている。特に適格・非適格の判定基準や繰越欠損金の取扱いなどに関し、実務上誤りやすいポイントを「大誤算!」という形で注意喚起し、そこから導き出される「教訓」を明示する構成は、実務家にとって極めて有益である。これらの「大誤算!」と「教訓」は、著者らの長年にわたる組織再編業務のなかで体得された学びに基づいており、一般的な解説書からは得がたい貴重な知見が凝縮されている。
また、M&Aとその後の再編は別個に検討されがちであるが、本書では両者の関連を強く意識した解説がなされており、買収後の税務戦略までを視野に入れた包括的な理解に資する内容となっている。
総じて、本書は、難解なM&A・組織再編成の税務について、徹底的に実務目線でわかりやすく解説した、まさに〝実務の現場に寄り添う〟一冊であるといえよう。税理士や公認会計士、企業の税務担当者はもとより、M&Aに携わる経営者、法務担当者にとっても必読の書である。
安田 雄飛(北浜法律事務所 弁護士・税理士)
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