『伴走者になるための会計入門』(『旬刊経理情報』2025年6月10日増大号掲載書評)

書評

企業価値を「創造」する経理財務―バックオフィスからフロントオフィスへの変革 旬刊経理情報』2025年6月10日増大号の書評欄(「inほんmation」・評者:井下 等 氏)に『伴走者になるための会計入門』宮地 晃輔〔編著〕/木竹 広賢・木竹 優子〔著〕を掲載しました。







本書は、管理会計を専門とする大学教授と、税務に精通した新進気鋭の税理士との共著である。通常、決算書の読み方の本、経理実務の本というと、難解な会計制度や、膨大な経理手続が解説されたものが多いが、本書では中小企業の実務家を中心に読んでもらえるように、重要なテーマを絞り込んでいる。

書名にある〝伴走者になるための〟とは、経営者にアドバイスができるようになるために、新任の税理士や経理パーソンでも、ここを押さえておけば仕事ができるようになる、との意味を含んでいるのであろう。

会社経営または事業活動は会計数値を使って動かしており、簿記の知識は会社の経営を理解するのに役に立つものである。未来に向けて企業を発展させるには、経営者や管理者、従業員などすべての人たちが〝会計感性〟を磨いて、興味深い未来を創造しようとする行動が必要であるという。〝会計感性〟とは、企業活動の結果として表れた決算書などの会計情報を通じて、事業の結果を読み取り、その数値から感じる心の働きであると著者は定義している。企業の発展を実現させるためには、企業にかかわるすべての人が会計数値に敏感になる必要があると著者はいう。

企業の1年間の事業活動の結果は、複式簿記によって計算され、会計数値情報(過去会計)として表される。企業の過去会計としての実績情報がなければ、未来の会社経営を合理的に考えることは難しい。一方、過去会計に対して未来会計という言葉があり、企業の未来を具体的に描くことに役立つことを目的としている。経営者が自社の未来を描くとき、〝会計感性〟が大きく関わってくるという。

本書は2部構成である。「第1編 会社の業績を知るための会計」は3章からなり、貸借対照表と損益計算書の基礎をレクチャーし、決算において期間比較や同業他社比較で具体的にみるポイントを示している。「第2編 会社の発展のための会計」は7章からなり、前半の5章では、変動費と固定費の関係、損益分岐点における売上高、そして売上高の分析方法や在庫管理、人件費管理など、企業経営上、絶対に見逃してはならない点について言及している。後半の2章では、実務のベースとなる、KPI(重要業績評価指標)とKGI (重要目標達成指標)や、会社の未来を創造するためにはコーチング (対話スキル)が必要となることを述べている。

本書では、読みやすさのために専門用語の多用を避け、平易な言葉で説明しているため、初学者にとっても理解しやすい内容となっている。また、初学者が視覚的にも理解しやすいよう、図表やケーススタディも効果的に活用されている。ケーススタディは、実際のビジネスシーンをイメージしやすい表現となっており、読んでいてとにかくわかりやすい。

本書は実務的な内容と読みやすさを兼ね備えた一冊である。〝経営の伴走者〟として求められる幅広いスキルセットを提供しており、その包括的な視点が非常に魅力的と考える。

井下 等(株式会社亀山電機 企画部部長)

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