『数字の「違和感」で見抜く不正の兆候』(『旬刊経理情報』2024年6月10日号掲載書評)

書評

数字の「違和感」で見抜く不正の兆候
旬刊経理情報』2024年6月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:藤枝 政雄 氏)に『数字の「違和感」で見抜く不正の兆候 』(安福 健也〔著〕)を掲載しました。







「違和感」を覚えるということは日常生活でもよくある。しかし、どこかひっかかる、何か変だと感じても、気のせいだろうと見過ごしてしまうことが多い。ましてや、会計不正という事象が身近で発生するという感覚はなく、現実を直視することは難しい。

ちょっとしたきっかけで始まった会計不正は、その大半が自ら終わることなく、長期に、そして金額も多大となり、破綻して表面化する。実行した本人はもとより、会社も信用を失い、時には経営基盤を揺るがすことさえある。取引先や従業員、債権者や株主へも多大な影響を及ぼす。会計不正を完全になくすことは難しく、どれだけ不正発生リスクを軽減し、どれだけ早期に発見するかがポイントになる。

経理部、内部監査室、監査法人等の関係者は、「会計不正」にまだそうとわからない段階で遭遇する。靄のかかっているなかで「何か」あるのではないかとその端緒を手繰り寄せる。「会計不正」と明確に判断できずとも、「もしかして」ともう一歩踏み込んでいく。無駄になるかもしれないが「会計不正」の影響を最小限にとどめるためには違和感に敏感になることが必要である。すべての「違和感」に対応することはできないが、効率的に焦点を絞って、時には他も巻き込んで調査を始める。

本書は、長年にわたり、監査業務そして不正リスク対応業務を経験している著者が、監査法人、内部監査人、監査役等の担当者が「違和感」から「会計不正」の兆候をつかみ究明していく過程を、最近の事例をもとにした20のエピソードを通じて解説するものである。

読者は、本書に登場する担当者とともに監査の現場に臨席し、数字の違和感から不正の兆候に気づき、効果的に追求していく様を体験する。現場では監査チーム間の臨場感あるやり取りが行われ、時間の経過とともに事態が展開していく。読者は各エピソードの各シーンで、どのように「違和感」を持つだろうか? 分析的手続を実施して、どこに不自然さを感じるか、その着眼点を示し、詳細な表やグラフをふんだんに織り込みながら、「違和感」の理由を明らかにしていく。時系列や同業他社比較では、数値そのものやその増減、比率等を懐疑心をもってみることが重要である。会計不正が発覚してから、あの数値は異常だったと指摘してもしかたがない。

本書は、難解な用語や複雑な数値の使用を控え、用語解説なども挿入されており、不正リスク対応の初心者にも読みやすく、エピソードに登場する担当者とともに、「違和感」の正体を突き止める疑似体験の書として活用できる。

一方で、経験者の方は、実際の経験を踏まえ自らに置き換えてお読みいただきたい。仮にご自身であれば、どのように発見し、調査するだろうか? 自分であればどこで「違和感」を覚えるだろうか? そして、エピソードの始まる前の段階、もっと早い段階で「不正の兆候」が表れているはずだと予想していただければ、著者としても本望であろう。

藤枝 政雄(公認会計士 株式会社奈良新聞社顧問)

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