『編集者にもわかる租税法律主義って?』(『旬刊経理情報』2023年10月10日号掲載書評)

書評

海外投資家ニーズを押さえた英文開示のあり方・作り方 旬刊経理情報』2023年10月10日号 の書評欄(「inほんmation」・評者:田口 安克 氏)に『編集者にもわかる租税法律主義って?』(髙橋 貴美子〔著〕)を掲載しました。







本書は税理士をはじめとする税務従事者に、事案における根拠条文を確定することを出発点として、条文操作、条文解釈等の法的な枠組みをベースとする思考運動を身に付けてもらうことを目指す本である。

まず、第1章にて、法的判断枠組みの概要等が説明され、それらを「実際の事案の事実関係を、法令の規定に定める要件と比べて、適用させるか否かを判断する」とし、①適用されるべき条文の確定、②条文解釈、③当てはめ、④事実認定の4つのステップからなるとしている。特に②については、条文解読および解釈の方法(「租税法律主義」によれば文理解釈が原則!)に慣れてもらうことを主目的としている(「条文解釈とは、条文の文言の具体的な内容への翻訳である。」とは言い得て妙である)。

第2章以下では納税者敗訴の裁判例を素材として、第1章で説明された枠組みに従い、「租税法律主義」が実践されている。まず、第2章は、高額取得した棚卸資産―土地の売上原価性否認事例につき、根拠条文を丁寧に追っていくことにより実際に審理判断された争点以外に、当該寄附金の事業年度帰属性も争点となり得たとしている。条文によって、納税者にとって「突破口」となる争点がみつかるというよき例である。

第3章は、2つの事件の裁判例をもとに過年度の損益是正に関する事案―「前期損益修正」vs「遡及修正」―である。著者は、過年度損益の是正に関する問題は、実質的には法人税法上の特別な論点ではなく、「発生主義」をどこまで厳密に適用するかの点に帰着するのではないかと指摘しており、原則としては、発生主義に従い遡及修正することになるとし、金額が軽微であって、更正の請求の除斥期間が徒過する前であれば、前期損益修正処理によって是正することも許容されるのではないかとしている。

第4章では、「事前確定届出給与」該当性を否定された事案を取り上げている。「増額支給事案」と「減額支給事案」との2ケースを検討し、届出どおりに支給されない場合の事前確定届出給与該当性につき、根拠条文を読み解き操作することで、単純に結論が導き出されるはずであると指摘している。また、役員給与の決議に係る会社法の知識の必要性や「確定」の意義の検討もなされている。

第5章は、もっぱら条文解釈が争点となった事例である。具体的には、租税特例措置法37条の3第1項の課税要件の法規的解釈の意義等について、裁判所の判断に対する著者の問題提起が取り上げられている。ここでは、第2章から第4章までの条文エクササイズを再度検証し、読者に知識の深掘りを提示しているように見受けられる。終盤の租税債務の発生・確定・消滅のメカニズムの解説および筆者の見解は興味深いところである。

税務問題を解決する際には、5つのジョブ(①相手方の主張を分析すること、②真の争点を見つけること、③条文の読解、④条文の操作、⑤条文の解釈)でエクササイズすれば、法的リテラシーが身につくとのこと。自分も、本書の編集者になったつもりで著者と対話しつつ、「租税法律主義」を実践したくなる本である。

田口 安克(公認会計士・税理士、税理士法人メディア・エス 代表社員)

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