『実践 人権デュー・ディリジェンス―持続可能なビジネスに向けて』(『旬刊経理情報』2023年9月10日号掲載書評)

書評

実践 人権デュー・ディリジェンス―持続可能なビジネスに向けて
旬刊経理情報』2023年9月10日号 の書評欄(「inほんmation」・評者: 後藤 敏彦 氏)に『実践 人権デュー・ディリジェンス―持続可能なビジネスに向けて 』( KPMGあずさサステナビリティ株式会社 〔編〕 )を掲載しました。







今、企業はサステナビリティ情報開示の大波に遭遇している。気候変動がその第一弾であるが、人権はそれとも関係のある大課題の1つである。人権に関しては「何のため、人権デュー・ディリジェンス(以下、「人権DD」という)を、どうするのか(何を、どのように、どの程度、etc.)」が企業の意思決定で問われている。

本書は、「経営管理として何をどこまで対応すれば企業として人権を尊重したことになるのか、あるいは、十分に対応できているといえるのか(本書「はじめに」)」という悩みに応えようとする労作である。本書は、「企業にとって、なぜ人権の尊重は重要なのか」をリスクの観点から、しかもバリューチェーン全体のなかで捉えており、極めて妥当である。特に、ESG評価視点の解説は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、「国連GP」という)」を基本にしており実務には大いに役立とう。

しかし、リスクは年を追うごとに巨大化傾向にあるものの、本書で述べられているように業種、操業・営業地域、歴史等々で事情が大きく変わってくる。したがって、過去に人権問題を経験した企業以外はなかなか人権DDの必要性の実感につながらない。やはり「何のため」を考えることが必要であり、本書を熟読するなかでリスク以外のビジネス機会や企業品質等の要因も含め、深く思索する必要があろう。

国内外の動向として人権の本質から説き起こし、それは自由権や労働基本権等々であることを解説している。これらは市民革命等を通じて確立されてきたが、一方で現代企業は人権や民主主義を理念とした近代市民社会を基盤に発展してきたものであり、「何のため」を考える参考になる。

国連GPはグローバル化の影への対応として策定されたものであり、その後のOECDのガイダンスを含め、本書ではその解説および実務展開に多くの頁数を費やしている。これは人権DDの何を、どのように遂行するかの詳細版といってよい。また、原本に当たれるように脚注が充実しているのもよい。

「ビジネスと人権」に関しては、法規制路線、すなわち企業にも「国家と同じ人権保護義務を課す」という流れがあったが、いったんは国連GPというソフトローに落ち着いた。依然として国連の一部や欧州を中心に法規制路線も動いているが、かつてと異なるのは、企業に人権DDを義務化する動きである。

したがって、企業としては、しっかり人権DDを実施していれば法規制化の動向をさして気にする必要はない。もちろん、グローバルなトレンドおよび事業活動を展開する個別国の法規制をウォッチするのは当然で、それに合わせて必要な調整をすればよいであろう。

第4章の「UNGPs10+ビジネスと人権の次の10年に向けたロードマップ」の解説にもあるが、今後ともビジネスと人権には大きな変化が見込まれる。「おわりに」にあるように「まずは実現可能な範囲で取り組」むことがポイントである。

後藤 敏彦(グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン理事)

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