『詳解 合同会社の法務と税務』(『旬刊経理情報』2023年8月20日・9月1日号掲載書評)

書評

詳解 合同会社の法務と税務
旬刊経理情報』2023年8月20日・9月1日号 の書評欄(「inほんmation」・評者: 村上 博隆 氏)に『詳解 合同会社の法務と税務 』( 安部 慶彦 〔著〕 )を掲載しました。







税務を生業としていて、一番恐ろしく、かつ、避けるべきことは何か。それは、論点があることに気づけないことである。

これまで、さまざまな場面で合同会社を活用してきており、そして、税務調査において指摘を受けたことがなかったとしても、それがすなわち、論点がないことにはならないし、この先も同様に、指摘を受けることはないという保証はどこにもない。

税務上の論点の検討にあたっては、私法上の法律関係の確定が必要である。つまり、合同会社の税務上の論点の検討に際しては、その前提として、会社法、その他の私法に基づく法律関係が整理されなければならない。

しかし、その前提となる法律上の論点は、会社法コンメンタールのような法律の専門家向けの書籍でないと詳細に論じられておらず、そして、税務上の論点については、ほとんど論じられていないのが実情である。

また、合同会社の設立運営といった、実務面について書かれた書籍を読んでも、税務上の論点を把握することはできない。

こういった状況を踏まえ、弁護士・税理士である著者が、自身の豊富な経験に基づいて、会社法等からの観点はもちろんのこと、税法の観点からも、合同会社に関するさまざまな論点を惜しみなく紹介している書籍が本書である。

本書では、株式会社の制度との比較を用いた、合同会社の一般的な制度の説明に始まり、その違いから生じ得る、法務・税務のさまざまな論点が紹介されている。また、利益の配当といった数値が絡む項目においては、具体的な数値を用いて説明がされており、イメージがつかみやすく、理解しやすい。そして、合同会社の合併や、解散・清算等といった非常に特殊な論点についてもカバーしている。

弁護士が書く書籍は、判例などを詳細に解説したものが多いなか、本書では、あえて、あまり深入りせず、法務・税務の論点をバランスよく紹介している。よって、弁護士のみならず、税理士などの専門家にとっても読みやすい書籍となっている。加えて、さまざまな論点やその解決策が、本文、脚注、コラムにちりばめられて紹介されているため、宝探しのような感覚で、本書を読んでみることをお勧めする。

著者は大手法律事務所に所属し、ウェルスマネジメント/相続・事業承継をはじめとして、ファイナンスやファンドに関する業務を専門分野としており、これらに関する法務・税務についての豊富な経験を有している。そして、その経験を通じて得た知識を、再考し、整理したうえで、本書にて紹介したとのことであった。

著者と同様の業務を専門分野としている弁護士や税理士、その他の専門家にとって、合同会社に関する既存の論点はもちろんのこと、まだ、顕在化していない、隠れた税務上の論点を把握・理解し、それらに適切に備えることに資する書籍である。

村上 博隆(公認会計士 税理士)

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