『チェックリストでわかるIPOの実務詳解』(『旬刊経理情報』2023年2月10日号掲載書評)

書評

チェックリストでわかるIPOの実務詳解
旬刊経理情報』2023年2月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 奥原 主一 氏)に『チェックリストでわかるIPOの実務詳解 』( EY新日本有限責任監査法人 〔編〕 金野 広義・ 田中 博文・ 大角 博章・ 清宮 悠太 〔代表執筆者〕 )を掲載しました。







監査法人によるIPOに関するガイドブックの完全な新刊が発刊されるのは何年ぶりであろうか。ずいぶん久しぶりのように思う。

2022年の新興市場の状況は、マーケット環境の悪化からIPO社数は2021年と比べて減少したものの、日本政府は引き続きスタートアップ支援施策に力を入れており、今後もスタートアップを取り巻く環境の改善が期待されること、また、IPOはこれからもスタートアップにとっての重要な成長戦略であることに変わりはないことから、このタイミングで監査法人があらためて新刊のIPOのガイドブックを刊行するのは意義があることではないかと思う。

聞けば、本書の編者であるEY新日本有限責任監査法人は、従来からIPO支援、スタートアップ支援に力を入れており、何年も連続してIPO企業の監査実績No.1の監査法人とのことである。本書を読了して、その実績があるからこのような書籍が書けたのだな、と納得できる部分はやはりあると感じた。

典型的なIPOの論点(ガバナンス体制・内部管理体制や事業計画の策定、資本政策等)については近年のIPOを踏まえて最新の状況にアップデートされており、また、IFRS上場、グローバルオファリング、法務上の論点等、ここ数年で注目度が高まってきたトピックについては独立した章を設けて解説されている。

加えて、本書の執筆者たちが、長年のIPO監査の実務経験を通して得てきた実際の経験や教訓に基づいていると思われる記載が端々にあり、新たな気づきや再認識を得ることができた箇所がいくつもあった。

具体例を1つ挙げれば、コラムのなかに「内部統制は自社の大切な従業員を守るためのもの」という、内部統制の効果の一面を紹介しているものがあったが(内部統制のこの一面に言及している専門書はあまりないように思う)、執筆者が実際に実務を通して何らか痛感する出来事を経験していなければ、このような視点のコラムはなかなか書けないのではないかと推察する。内部統制の本来的な意義・効果ではないかもしれないが、IPOを目指すスタートアップのマネジメントは、内部統制には自社の大切な従業員を守る効果もある、ということが理解できれば、腹落ちし、納得して内部統制の構築を進めていくことができるのではないだろうか。

もう1つは、チェックリスト形式を採っていることのメリットと考えられるが、上場審査上の留意点の記載が充実している点も本書の特徴として挙げられる。わかりにくい論点については具体例等も示されており、IPOに向けてクリアしていくべき課題を網羅的に把握しやすくなっている。

一般的に、IPOの実現のためにはやるべきことが多岐にわたり、また、作業ボリュームも多いために混乱をきたしてしまうこともあるが、IPO準備会社の担当者は、本書を傍らに置いてIPO準備に取り組むことで、効率的に準備作業を行うことができるのではないだろうか。

私も投資先に本書を勧めようと思う。

奥原主一(日本ベンチャーキャピタル㈱ 代表取締役会長)