『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』(『旬刊経理情報』2022年12月10日号掲載書評)

書評

事例でわかる!NFT・暗号資産の税務
旬刊経理情報』2022年12月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 宮崎 裕士 氏)に『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務 』( 泉 絢也・藤本 剛平〔著〕 )を掲載しました。







本書は著書紹介にもあるように、「税金初心者でもわかる基本的な事例から応用事例もカバー」した書と位置づけられている。そのため、税金初心者にも門戸を拡げる入門書としての意義も有するものとみて、本書の入門書としての役立ちに着目してみたい。

本書は、3部構成からなる。まず、第1部は新進気鋭の研究者である泉先生が担当され、本書が対象とするNFTや暗号資産の実際の取引(売買・交換)に係わる税目を紹介し、各税目での理論および問題提起がなされている。特に、「暗号資産とNFTの税金の取扱いを知るうえでまず知っておきたい各税法の概要と暗号資産に関する特別の定め」として、各税目における「暗号資産」の取扱いの違いに触れながら、後の事例紹介への展開を行うことで、税の知識のない入門者にも、税法上の具体的な理論的問題点を提示し、興味を抱かせることを念頭に置いている。その意味において、「NFTや暗号資産」を対象とした「『新入り』の取引等に対しても、既存のものと同様に税金が課される可能性が確保されている」点に触れられていることは特筆すべきであろう。

続いて、第2部では、第1部の問題提起や税の理論を踏まえて、これまた新進気鋭の藤本税理士によって、入門書としてなるべく平易な用語でNFTや暗号資産の取引事例解説が行われている。特に、暗号資産とNFTとを分けて構成することで、暗号資産やNFTのそれぞれ固有の問題として「流動性供給問題」および「二次流通のロイヤリティ収入」があることを意識させられる。他方で、それらの共通の問題として、「直接換金しなくても税金が生じる場合がある」ことと、「取得価額や譲渡原価および評価方法」の算定方法に特段の定めがないことが挙げられている。

最後に第3部では、前記を踏まえて、「新入り」の取引から生じた所得について、確定申告をする、もしくは税理士に依頼する準備として、計算過程における実務上の問題をあらためて提起している。また、本書全体において、Columnが適宜設けられており、専門用語の解説や頻出事例の紹介を通じて、入門書としてなるべく平易な解説に努めている。しかしながら、欲をいえば、CEXやDEX等の頻出専門用語については、冒頭の用語解説だけでなく、本文中でも適宜解説を設けることで、より税金初心者にとって読みやすいものとなったと思われる。

本書の著者である先生方は、偶然Twitterを通じて知り合ったそうで、これも新しい取引の解明に挑戦しようという強い意思が結びつけた縁ということであろう。「何かわからないものをわかるようにすること」は研究者だけの特権ではない。本書にみられるように、これからも生じ続けるであろう新しい取引の解明への挑戦は、理論と実務を結びつけ、シナジーを生み出す力になるということの証左となっているように思う。

暗号資産やNFTの取引への興味を通じて、税全体だけでなく研究者や税理士のあり様についても知ることのできる良書である。ぜひとも一読をお願いしたい。

宮崎裕士(九州情報大学経営情報学部情報ネットワーク学科専任講師)

記事掲載書籍をカートに入れる