『日本の消費税―社会保障・税一体改革の経緯と重要資料』(『税務弘報』2023年1月号掲載書評)

書評

契約解消の法律実務
税務弘報』2023年1月号の書評欄(「BOOKS」・評者: 熊王 征秀 氏)に『日本の消費税―社会保障・税一体改革の経緯と重要資料 』( 森信 茂樹〔著〕 )を掲載しました。







消費税率の引上げを柱とする社会保障・税一体改革法は,紆余曲折の末,三党合意の下に平成24年8月10日に国会で可決成立した。この時に,景気の回復が思わしくない場合には,消費税の税率引上げを先送りすることを条件とする景気弾力条項(いわゆる「ストップ条項」と呼ばれる改革法附則18条)が新たに設けられた。

安倍元総理大臣は,このストップ条項を根拠に平成27年10月1日からの10%への増税を延期する際,『国民に信を問う』という大義名分の下に衆議院を解散した。選挙演説では,『次なる延期はない!』と大見得を切ってストップ条項を削除したにもかかわらず,『リーマンショック級の大不況が迫っている』と大嘘をついて2度目の増税延期を企んだのである。

伊勢志摩サミットにおいて各国首脳陣から景気判断に対する批判を浴びたにもかかわらず,「新しい判断」という言葉により増税延期に踏み切った安倍元総理の政治手法は,中国やロシアの独裁者と何ら変わるものではない。議会制民主主義を根底から破壊する蛮行である。

息詰まるような閉塞感と賃金の伸び悩みに加え,円安による物価高が家計を直撃したことにより,日本経済は混迷の真っ只中にある。景気対策が必要であることは言うまでもないが,財政再建と構造改革,歳出削減は正に待ったなしの状況にある。

アベノミクスの失敗の原因究明とともに,消費税のさらなる増税の準備はもはや避けて通れないところまできているように感じられる。そのためには,日本の消費税がどのような経緯を辿ってこのように歪な制度になり下がったのかということをしっかりと確認する必要がある。

なぜに飲食料品に対し,軽減税率を適用する必要があったのか......なぜ唐突に新聞に軽減税率が適用されることになったのか......正しい資料に基づき,その事実をしっかりと見極めることが重要である。

本書では,小泉内閣から第2次安倍内閣までにおける消費税を中心とした税制論議について,根拠資料を載せながら実にコンパクトに解説がされている。読みやすい文章により私情を挟むことなく淡々と時系列が説明されているので,「解説編」を読むことにより消費税の歴史(過ち)を確認することができる。

本書の中でも特筆すべきなのは資料9-5-13(1222頁〜1227頁)に掲載されている著者の国会における参考人としての意見記録である。ここでは,軽減税率制度がいかに非効率なものであるかということの解説に加え,これに代わる代替案として給付付(つ)き税額控除が提案されている。また,インボイス制度に関する誤解の払拭と必要性についての説明もされているのであるが,著者の思いも空しく,軽減税率制度はわずか2%の軽減という意味のない状態で令和元年より導入され,気休め程度の効果しかでていないのが現状である。

消費税ほど政局に翻弄された税はない。

令和5年10月より導入予定となっているインボイス制度については,呆れたことに,日本商工会議所から,免税事業者からの仕入れについて100%控除を容認すべきであるなどという稚拙な要望がされている。導入の延期は無論のこと,誤った報道などが原因で,中途半端な妥協案により歪んだ制度とならないことをただひたすら願うばかりである。

熊王征秀(税理士)

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