書評
『旬刊経理情報』2022年10月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 松下 洋也 氏)に『総務・事務局担当者のための社外取締役対応の現場Q&A 』( 中西 和幸〔著〕 )を掲載しました。
近時、日本の会社における指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社では、法律上設置が義務づけられていること、あるいはコーポレートガバナンス・コードで、上場会社においてはその設置が事実上義務づけられていることなどから、「社外取締役」を導入することが半ば当然の前提になっている。社外の声を経営に取り入れさらに事業を拡大しよう、新たな外部視点を入れて経営を合理化しようなど、さまざまな理由があるという。
他方で、いかに、必要性があるといっても、その企業になじみのない人物を経営者として迎え入れるだけで所期の効果が必ず得られるのだろうか。当事者でなくても、素直に浮かんでくる疑問である。また、会社のことを知らない経営者を迎え入れることでどのような問題が起きるのか、現実に迎え入れる側の事務方の心配は尽きないだろう。
本書は、そういった、迎え入れる側の企業の経営者あるいは現場担当者の不安に応える形で、具体的な対応方法をきめ細かく解説した良書である。
著者本人も、複数の社外取締役の経験があり、また、普段から会社の側に立ち、法的助言をする立場にあるようである。本書は、そういった、両者の立場で考える機会があるという、著者本人の豊富な経験から、非常に丁寧に、Q&Aの形で解説する内容となっている。
たとえば、初めて社外取締役制度を導入する会社が最初に突き当たる「社外取締役の候補者探し」から始まり、社外取締役を選任した後、会社をよく知ってもらうための「社外取締役の現場見学」、「社外取締役のトレーニング」、「役員向け研修への社外取締役の参加」などをどのように円滑に実施するべきかが挙げられる。また、取締役会開催に際して「社外取締役に求める取締役会への事前準備」、さらには「取締役会の座席配置への配慮」といった細かいポイント、そして社外取締役が退任するに際してどのように対応するべきかをまとめた「社外取締役の退任」等、現実に想定されるさまざまな場面に沿って、きめ細かく解説がなされている。
本書のなかでは、実務上、担当者としてあるいは経営者の一角として判断に迷うが、外部の識者に聞くにはちょっと憚られるような、些細な項目も挙げられている。そういったきめ細かい配慮も含めて、網羅的に、考え得る論点を拾っている。その点が、この本の優れている点であると思う。
評者も、社外取締役を迎える会社の法務部長として、本書で紹介されているいくつかの事例に思い当たることがあり、もう少し早く本書に触れていればもっと楽に対応ができたものと思う。
これから、会社として社外取締役を導入しようと考えている会社の経営者・現場担当者のみならず、すでに社外取締役制度を導入している会社の経営者・担当者にとっても、社外取締役との対話に関する日々の悩みを網羅的に解消してくれる座右の一冊となることであろう。
松下洋也(日本精工㈱法務コンプライアンス本部法務部長)
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