【WEBマンガ】税の歴史(第9話)

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今、日本には消費税や所得税をはじめとする多くの「税」があります。
そしてそのすべては、法律によって定められています。
「税」が法律に定められているということは、今では当たり前のことのようですが、日本の「税」の仕組みは、長い歴史のなかで形づくられてきました。
「税」の歴史を辿ると、それぞれの時代に地域や国を担っていた人々が、どのような国づくりをしたかったのか、その苦労や工夫、そして未来への希望を垣間見ることができます。
マンガ「税の歴史」では、千年税務会計事務所に勤めるメンバーが、時代を動かした歴史上の人物に出会い、「税」について学んでいきます。

チームむぎ

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今回のポイント

第9話「世阿弥」

第8話では、武士のはじまりと、それを背景とした鎌倉幕府における源頼朝と御家人との封建制度について描きました。
「地頭」職を与えられた御家人は、直接税の取り立てにあたりましたが、なかには百姓に対し、「妻子どもを家に閉じ込め、耳を切り鼻をそぎ......苦しめるぞ」などと無理な取り立てを行っていたものもあったと伝えられています。このエピソードは、「泣く子と地頭には勝てぬ(聞き分けのない子や横暴な地頭とは道理で争っても勝ち目はない)」ということわざとして残されているほどです。
源頼朝が没したあと、朝廷と幕府の争い(承久の乱)に勝利した鎌倉幕府は、ますます勢いを強めますが、その状況に反発した後醍醐天皇が討幕をかかげると、有力御家人であった足利高氏(後の足利尊氏)が離反して幕府を打つ意思を明らかにしたことをきっかけに、鎌倉幕府は滅亡しました。
これにより御家人制度は廃止され、地頭制度もなくなりましたが、一方で、足利氏一門から守護が各国へ派遣され、その権力は拡大していきました。そして、守護の支配する国に土地を持つ武家は国人と呼ばれ、所領を支配していました。
足利尊氏の孫、足利義満が将軍職につくころになると、米の代わりに年貢を「銭」で納める代銭納(だいせんのう)が普及し、「割符(さいふ)」による送金が行われるようになりました。
割符は、文字などを木片などに書いて2つに割ったもので、当時の商取引だけでなく、税を納める時にも使われていたとされています。
「銭」の流通が進むと、土倉という「質」で預かったものを保管する倉庫を持つところや、酒屋がお金を貸す金融業も兼業するようになりました。
室町幕府は、1393年から京都とその周辺の土倉・酒屋に対する課税をはじめ(土倉役・酒屋役)ますが、一方で課税する代わりに諸役(いろいろな雑税)を免除したとされています。
直接支配する土地が少なかった室町幕府にとって、土地以外のもの(通行税など)に課税を行って財源を賄うことは大事なことであり、なかでも土倉役、酒屋役は貴重な財源になったとされています。
一方、猿楽の一座、観世座の座長を務め、人気を博していた観阿弥の息子、世阿弥(芸名:世阿弥陀仏の略、本名:元清)は、その美しさと優れた才能で、10代のころに足利義満に気に入られ、庇護を受けたと言われています。
世阿弥は「風姿花伝」や「花鏡」などの論書を残したことによって、その芸に対する姿勢は今も伝えられています。「初心忘るべからず」は、未熟なころの芸を忘れることなく芸を向上させていくという、世阿弥が残した言葉です。
足利義満亡き後は、その後の将軍により流刑になるなど、世阿弥の晩年は波乱に満ちたものでした。
世阿弥は、南北朝の動乱のなか代銭納による急激な経済の変化に翻弄される民衆の心を、的確に捉えて芸能として演じることで、癒していたのかもしれません。

激動の時代においても初心を大切にする心を学んだ「チームむぎ」。
次回は現代に戻って、これまでの税の歴史の旅を振り返ります!

参考文献

日本史広辞典編集委員会編『山川日本史小辞典改訂新版』山川出版社、2016年
石ノ森章太郎『新装版マンガ日本の歴史』中央公論新社、2020年
北條恒一『日本古代税制史の研究』白鳳社、1986年
平凡社編『新版日本史モノ事典』平凡社、2017年
井筒雅風『日本服飾史 男性編』光村推古書院、2015年
下向井龍彦監修『歴史人物できごと新辞典』増進堂・受験研究社、2015年
佐藤信・五味文彦・高埜利彦・鳥海靖編『詳説日本史研究』山川出版社、2017年
笹山晴生・佐藤信・五味文彦・高埜利彦・老川慶喜・加藤陽子・坂上康俊・桜井英治・白石太一郎・鈴木淳・吉田伸之『詳説日本史改訂版日B309』山川出版社、2017年
笹山晴生・五味文彦・吉田伸之・鳥海靖『詳説日本史史料集』山川出版社、2007年
伊藤俊一『荘園―墾田永年私財法から応仁の乱まで』中央公論新社、2021年
永原慶二『荘園』吉川弘文館、1998年
多賀譲治『知るほど楽しい鎌倉時代』理工図書、2011年
世阿弥著、水野聡訳『現代語訳 風姿花伝』PHP研究所、2005年

茂垣 志乙里(税理士)

2012年税理士登録。

イラスト経歴

  • 連載:「税理士は社交力が命 4コマDEマナー」『税務弘報』中央経済社、2020年1月号~
  • 連載:「DANDANわかる!非営利法人のAtoZ」『公益一般法人』全国公益法人協会、2022年5月1日号〜
  • 連載:「税務は洞察力が命 イラストDE分析」『税務弘報』中央経済社、2017年7月号~2018年6月号
  • 連載:「税務は洞察力が命 イラストDE分析Ⅱ」『税務弘報』中央経済社、2018年10月号~2019年9月号
  • 挿絵:加藤剛毅著『トラブル事案にまなぶ「泥沼」相続争い解決・予防の手引き』中央経済社、2020年
  • 共著・挿絵:『今のうちから考えよう相続対策のはじめ方』日本加除出版、2014年
  • 共著・挿絵:『年金世代から考える税金とのつきあい方と確定申告』日本加除出版、2015年
  • 挿絵:『成功する開業医―院長夫人、あなたが期待されていること』中央経済社、2021年
  • 挿絵:『大人のお金の遣い方―税理士に聴いてきました』中央経済社、2021年
  • 編著:「マンガでわかる! 免税事業者の消費税インボイス対策」ぎょうせい、2022年
  • 公式キャラクターデザイン:特定非営利活動法人NPO支援の税理士ネットワーク「のんちゃん」「ぽらちゃん」
  • 公式キャラクターデザイン:一般社団法人コミュニティ・カウンセラー・ネットワーク「ヤダもん」