『再生M&Aの教科書―士業専門家・専門業者等のための実務知識』(『旬刊経理情報』2022年7月10日号掲載書評)

書評

再生M&Aの教科書―士業専門家・専門業者等のための実務知識
旬刊経理情報』2022年7月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 黒澤 功栄 氏)に『再生M&Aの教科書―士業専門家・専門業者等のための実務知識 』( 久禮 義継〔著〕 )を掲載しました。







本書が世に送り出された意義として、大きく2点を挙げることができる。

1点目は、専門書としての希少性である。昨今コロナ禍の影響もあり、中小企業の倒産や廃業のニュースがよく聞かれるところである。しかし、この環境下においても効果的な解決手段である再生M&Aについて理解しやすく説明した専門書は極めて少ないのが現状である。再生実務が有する社会的意義を鑑みれば、士業専門家等のプロフェッショナルは、事業再生にかかる知識をさらに深めることにより、事業を継続すべきか断念すべきかの判断を適切に行い、手段としての再生M&Aを実行するに際して必要かつ十分な支援を行うことが望まれる。

もう1点は、再生M&Aは強い話題性を伴うことである。昨今中小企業においては後継者不足による「大廃業時代」の到来が懸念されており、この社会課題の抜本的な解決手段として中小M&Aが注目を浴びている。国や行政は、この中小M&A市場が健全な形で発展するように、中小M&Aガイドライン公表、事業承継・引継ぎ支援センター強化、補助金制度の導入といった支援を積極的に行っている。中小M&Aの1つの型として再生M&Aがあり、この点、再生M&Aは事業承継の問題解消や中小M&A市場の広がりと切り離せない関係にある。

次に、本書の内容を大きく分けると、再生M&Aの各論にかかる解説(1、2、3、5、7、8章)と、再生支援一般にかかる解説(その他の章)に紐解くことができる。再生M&Aは事業再生手法の1つであるため、再生支援一般にかかる実務の解説を欠くことはできないものであるが、本書では、それらが単独で完結せず自然な流れとなるよう、再生M&A実務について慎重かつ丁寧に解説されている。難易度が高い業務についての解説ではあるが、読み手にとってわかりやすい内容に仕上がっている。

さらにまた、本書は濃淡をつけた構成である点にも特徴がある。たとえば、デューディリジェンス、バリュエーション等の、M&A特有の手続にかかる基礎的なポイントの解説については必要最小限にとどめることにより、再生実務において知るべきポイント・留意点等(=応用編)の解説に焦点が絞られている(この意味では、本書は必ずしも初心者向けではない面もあり、本書を十分に読み解くために、M&Aの基本について理解したうえで読破されることをお勧めする)。それでもなお、通常のM&Aより複雑であり、かつ、複数のステークホルダーの利害が錯綜する再生M&Aは、解説すべき論点やポイントが多岐にわたるため、限られた文量にまとめあげるのに至難の業であっただろうことは容易に想像がつく(実際、本書では注書参照とする部分が非常に多い)。

最後に本音をいえば、再生M&Aの実務を肌感覚で知るという意味では、いくつかでもケーススタディの記載があればと考えるが、著者も本書の「おわりに」で述べたように、その記載を求めるにはこの文量では酷であろうと推察される。

黒澤 功栄( 黒澤合同事務所グループ 公認会計士・税理士)

記事掲載書籍をカートに入れる