『しくみ図解M&Aのポイント』(『旬刊経理情報』2022年6月10日号掲載書評)

書評

しくみ図解M&Aのポイント
旬刊経理情報』2022年6月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者: 藤本 聡 氏)に『しくみ図解M&Aのポイント 』( 小本 恵照・尾関 純〔編著〕 )を掲載しました。







関西に64店舗を展開する㈱関西スーパーマーケットの経営権をめぐり、同じく関西に地盤を有するエイチ・ツー・オー リテイリング㈱(H2O)と、首都圏でスーパーを展開するオーケー㈱が、経営権の獲得を目指して激しく争ったことは記憶に新しい。人口減少社会の進展による市場の大幅な縮小、グローバル競争の激化、SDGsやデジタル技術の革新、新型コロナウイルス感染症対応など、令和の時代に入り企業を取り巻く経営環境はめまぐるしく変化している。この変化にスピーディに対応していくためには、自社の経営資源の活用のみでは必ずしも十分ではなく、H2Oの経営統合にみられるように、自社に不足する経営資源を即座に調達できるM&Aは、この時代の要請に対応できる最も有力な経営戦略と考えることができる。

本書の第1章では、M&Aを実施するにあたり検討すべき戦略論を俯瞰的に展開している。スタートの段階でM&A戦略を間違えてしまうと、M&Aの失敗につながるおそれが大きい。経営の多角化や新規事業への参入、シナジー効果を得るためなど、その目的を明確に据える必要がある。第2章、第3章では、M&Aで活用される各種スキームの内容・手続等が、組織再編型と現金対価型とに区分されて、網羅的に記載されている。第4章では、M&Aの実行段階における進め方が具体的にわかりやすく記載され、また統合後のPMIの進め方についても記述されている。第5章から第7章では、M&Aの企業評価、会計処理および税務処理が、簡潔にかつ網羅的に記載されている。M&Aに適用される会計処理や税務処理は非常に難解であるが、M&A実行時に生じる会計・税務の諸問題への対処が概括的に検討できる内容になっている。

第7章までがM&Aの基礎編とすれば、第8章以下はいわば応用編といった位置づけで、クロスボーダーM&A、敵対的買収、事業再生型M&Aにおいて、特別に検討を要する留意点が展開されている。

編著者は、駒澤大学の研究者と、大手監査法人で長年M&Aに従事した実務家との組み合せであり、実務的な内容を中心にしながらも、経営理論的な解釈を取り入れた内容にできあがっている。

最新のM&A戦略を基礎から知りたいという企業経営者や管理職にとり、気軽に手に取って学べる書であり、また難解なM&A・組織再編の会計や税務の論点を検討していかなければならない経理部や経営企画部にとっても力強い味方になるであろう。

筆者は、以前に所属した大手監査法人で編著者である尾関先生の薫陶を受けた。そのときの貴重な時間と経験が礎となり、今も事業再生支援の分野での取組みを続けている。本書第10章に展開されているように、事業再生の場面においても、M&Aは、自社の経営資源を後世に承継するための非常に有用な手段であるため、その活用を含め、課題を抱える事業者にとっての最善策を一緒に見出せるよう、これからも飽くなきサポートを続けてまいりたい。

藤本 聡( ブライテンコンサルティング㈱ 代表取締役 公認会計士)

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