【WEBマンガ】税の歴史(第6話)

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今、日本には消費税や所得税をはじめとする多くの「税」があります。
そしてそのすべては、法律によって定められています。
「税」が法律に定められているということは、今では当たり前のことのようですが、日本の「税」の仕組みは、長い歴史のなかで形づくられてきました。
「税」の歴史を辿ると、それぞれの時代に地域や国を担っていた人々が、どのような国づくりをしたかったのか、その苦労や工夫、そして未来への希望を垣間見ることができます。
マンガ「税の歴史」では、千年税務会計事務所に勤めるメンバーが、時代を動かした歴史上の人物に出会い、「税」について学んでいきます。

チームむぎ

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今回のポイント

第6話「藤原元命」

743年に発布された「墾田永年私財法」は、田の開墾を促す目的がありましたが、実際には灌漑(かんがい)施設を敷いて新しい土地を開墾できる力のある人は限られていました。
結果として、貴族・大寺院や地方豪族たちの大土地所有が進み、周辺の農民が自らの口分田を耕作しながら貴族などの所有する土地に出作して「賃租(ちんそ)」という給料をもらう形態が多く見られたといわれています。
貴族などが所有したこのような土地は「初期荘園」と呼ばれ、もともと地域に根付いて税の徴収を主に行っていた郡司が、その経営に深く関わっていたと考えられています。
しかし、この「初期荘園」はすべて課税の対象とされていたことや、出作する農民へ貸し出す農具の管理などの負担が重かったことから、その仕組みはあまり長くは続きませんでした。
同時に、当時噴火や地震などの天災が相次ぎ、疫病の流行なども重なったことから古い集落が消滅し、郡司の地位は低下していきました。その一方で、力をつけた有力農民が現れて一部の貴族などと結び付き、一般の農民を搾取し、結果として中央への税収が減少して深刻な財政危機に陥りました。
このような危機に対処するため、902年には「延喜の荘園整理令(えんぎのしょうえんせいりれい)」が発布され、再び班田の励行をはかりましたが、すでに大宝律令の時代の律令制の継続は困難となっていました。
まもなく、中央政府は方針を転換し、律令制を大きく変換しました。この改革の一部が、「税の地税化」と「国司の権限の拡大」です。
 「税の地税化」は、相次ぐ天災・疫病の流行や、税負担を免れるため戸籍上の性別を偽装する「偽籍」によって機能しなくなった戸籍に応じた課税に代わり、田地の広さに応じた課税に変換することを意味しています。
これによって、律令制において人頭税として課されていた調や庸は、田地の面積に応じて納めるようになり、租、田率の調・庸などを合わせて「官物」と呼び、雑徭などの使役を「臨時雑役」と呼ぶようになりました。
また、「国司の権限の拡大」は、国司に一国内(一領内)の統治や徴税の管理をゆだねるようになったことをいいます。国司として任命された国は「任国(にんごく)」と呼ばれました。
なかでも、一身に納税責任を負った「受領国司(ずりょうこくし)」は、任国の田数に応じて決められた量の税さえ中央政府に納入すれば、国内の税の調整をどのように行うかは中央政府から干渉されないこととなりました。
この結果、当時の受領国司は自由に任国において手腕を奮い、巨額の利益をあげるものも多くいました。一方で、任国で郡司や有力農民から暴政を訴えられる場合がありました。 第6話に登場している藤原元命は、988年に「尾張国郡司百姓等解文(おわりのくにぐんじひゃくしょうらげぶみ)」によって、郡司や百姓などに訴えられ国司を解任させられています。31か条におよぶ訴状では、検田の際に作田の収穫を高く見積もり、過大な税を課すなど数々の悪政が明らかにされています。
律令制からの大きな税の変革期に直面した「チームむぎ」。
次回はどんな歴史上のできごとと人物に会うことができるのでしょうか?

参考文献

日本史広辞典編集委員会編『山川日本史小辞典改訂新版』山川出版社、2016年
石ノ森章太郎『新装版マンガ日本の歴史』中央公論新社、2020年
山本博文監修『角川まんが学習シリーズ日本の歴史 雅なる平安貴族 平安時代前期』KADOKAWA、2015年
北條恒一『日本古代税制史の研究』白鳳社、1986年
平凡社編『新版日本史モノ事典』平凡社、2017年
井筒雅風『日本服飾史 男性編』光村推古書院、2015年
下向井龍彦監修『歴史人物できごと新辞典』増進堂・受験研究社、2015年
佐藤信・五味文彦・高埜利彦・鳥海靖編『詳説日本史研究』山川出版社、2017年
笹山晴生・佐藤信・五味文彦・高埜利彦・老川慶喜・加藤陽子・坂上康俊・桜井英治・白石太一郎・鈴木淳・吉田伸之・山川出版社著『詳説日本史改訂版日本史B』山川出版社、2017年
笹山晴生・五味文彦・吉田伸之・鳥海靖『詳説日本史史料集』山川出版社、2007年
伊藤俊一『荘園―墾田永年私財法から応仁の乱まで』中央公論新社、2021年

茂垣 志乙里(税理士)

2012年税理士登録。

イラスト経歴

  • 公式キャラクターデザイン:特定非営利活動法人NPO支援の税理士ネットワーク「のんちゃん」「ぽらちゃん」
  • 公式キャラクターデザイン:一般社団法人コミュニティ・カウンセラー・ネットワーク「ヤダもん」