『保守主義会計―実態と経済的機能の実証分析』(『企業会計』2022年4月号)

書評

保守主義会計―実態と経済的機能の実証分析『企業会計』2022年4月号の書評欄(評者:中野 誠 氏)に『保守主義会計―実態と経済的機能の実証分析』(髙田 知実〔著〕)を掲載しました。







 私が髙田氏と出会ったのは今から約15年前,日本会計研究学会の特別委員会(通称「桜井委員会」)の研究会の場だった。当時,彼女は大学院生で,本書のテーマである「保守主義会計」の研究に打ち込んでいた頃である。その後,15年が経過して,満を持して公刊されたのが本書である。

 周知のとおり,わが国の企業会計原則は,一般原則の1つに「保守主義の原則」を挙げ,「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には,これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない」と規定している。他方,同注解4では,「過度に保守的な会計処理を行うことにより,企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない」と規定している。このように,わが国の企業会計原則では保守的な会計処理を推奨しつつも,財務情報の中立性(neutrality)の観点から過度に保守的な会計処理をいましめている。

 保守主義会計は不思議な会計現象の1つである。ダウンサイド・バイアスゆえに種々の批判を受けながらも,長期間にわたり存在しつづけてきた。著者は,主として Basu 氏の「逆回帰モデル」を採用して「保守主義の存在理由に関する合理的根拠」を積極的に明らかにしようと試みている。

 構成としては,第Ⅰ部で保守主義の「実態」あるいは存在を明示し,第Ⅱ部でその「経済的機能」の解明を目指している。第Ⅰ部の発見事実としては,日本については,⑴長期間にわたり保守主義会計が観察される点,⑵時系列で保守主義の程度は変動している点が析出された。国際比較分析からは,⑴多くの国で保守主義会計が観察される点,⑵保守主義の程度は国ごとに異質である点,⑶保守主義の程度は時系列で変動する点などを挙げることができる。第Ⅱ部では,銀行借入と保守主義会計に関係がある点,取締役会・監査人の特徴と保守主義の程度に関係がある点を析出している。いずれも丁寧かつ誠実な分析であり,信頼性が高い結果だという印象を受けた。

 全体的に,著者の思考はクリアーで直球勝負である。用語の定義が明確であり,論理展開もシンプル,過不足がなく,わかりやすい記述のため,読者は迷うことがない。1頁目から安心して読み進めることができるだろう。

 一連の分析を読んだ後,終章の「本書の発見事項は,一定の裁量性が認められている会計基準の範囲内で,企業による効率的な契約の履行において,保守主義の適用が促進されているという会計実務の説明理論を提供している」というビッグ・ピクチャー的な示唆にも納得感が得られるだろう。

 最後に1つだけ注文がある。それは本書の2本柱のうちの1本である「経済的機能」についてだ。当初,評者は保守主義の決定要因(determinants)と経済的帰結(economic consequences)の分析が展開されるものと期待して読み進めていった。たしかに,保守主義の程度を決定する要因についての分析はなされている。だが,保守主義の経済的帰結については,「今後の研究課題」とされている。「経済的機能」が重要なキーワードに設定されているのは,評者にとっては少々悩ましかった。

 2021年のアメリカ大リーグでは,大谷翔平選手の「二刀流」の大活躍が話題をさらった。髙田氏も財務会計研究,監査論研究の「二刀流研究者」である。2つの領域において続々と一流の研究成果を生み出している。今後も,大谷選手と同様,読み手がワクワクする研究を期待したい。

[評者]中野 誠 一橋大学教授

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