『自社に合ったESG情報開示の考え方・進め方』(『旬刊経理情報』2022年2月1日号)

書評

自社に合ったESG情報開示の考え方・進め方旬刊経理情報』2022年2月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:金子清二 氏)に『自社に合ったESG情報開示の考え方・進め方』(福岡 貴美〔著〕)を掲載しました。







前文に2つの概念図が掲載されている。1つはESG戦略を管理するための〝マネジメントツール〟の図、もう1つは、さまざまなステークホルダーの情報開示を最適化する〝情報開示戦略〟の図である。これらの図が、著者がこれまでの経験から構想し読者に提起した本書の中核をなす2つの概念である。

本文を読み進めるなかで、経営戦略全体を俯瞰し管理する〝マネジメントツール〟を、ESGの要素を組み込み、順を追って整理を進め、ESGを経営に組み込む際のポイント、たとえば、外部環境分析で国際的な情報ガイドラインを活用すること、分析結果をリスクと機会に分けたうえで強みを掛け合わせて戦略に落とし込むこと、一連の経営戦略プロセスが取締役会から監督されることなどが解説され、あるべき図として完成していく。この〝マネジメントツール〟が情報開示戦略にもつながっていく。

本書のメインテーマ「情報開示の戦略はステークホルダーとの対話を効果的、効率的にしていくこと」について、ESGを反映した情報開示戦略のあるべき姿が大胆に提示される。統合報告書サマリー版をダイレクトメールやSNSで発信し、ホームページに呼び込みベーシックな情報を提供、さらに詳細情報、専門情報を必要とする人に、ホームページをハブとして、各種報告書を提供する。ホームページを中核としたサマリー情報から専門情報の提供までのしくみ全体を〝広義な統合報告書〟とすることによって、異なるニーズを持ったステークホルダーに適切に情報を開示し効果的、効率的な対話に結びつけていく。ちなみに、統合報告書の制作に携わる者の多くが悩む課題に、網羅性と簡潔性の両立があるが、この情報開示戦略が1つの解になっている。

また、情報開示戦略のなかの各ツール、統合報告書サマリー版、ホームページ、サステナビリティ報告書、有価証券報告書、コーポレートガバナンス報告書のそれぞれが〝マネジメントツール〟すなわち経営戦略全体のなかでどのような役割を担っているのかを俯瞰的に理解できるとともに、ESGを反映した各報告書の要件定義や具体的な構成案も示されている。各報告書やホームページのESG情報開示を強化したい実務担当者には有効な示唆となるであろう。

さらに、類書では、概念的な説明が多く読者にとって腹落ちすることが難しい場合があるが、本書では「事例〝ヘルシーな定食屋さん〟」で、〝マネジメントツール〟作成と情報開示戦略などがわかりやすい具体例で解説され、読者の理解を促す。

本書は先進的な提案を含み、経営や情報開示に関する本質的な部分の変更に関わるため、すぐに導入することは容易でないかもしれない。しかし、タイトルの「自社に合ったESG情報開示の考え方・進め方」のヒントに溢れており、ESGの最近の動向を俯瞰したい方、ESGで経営戦略を強化していきたい方、各報告書制作に携わられている方などのESG情報開示を改善するためのヒントが欲しい皆さまには、ぜひ手にとってほしい一冊である。

金子清二(住友金属鉱山㈱広報IR部制作グループ担当課長)

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