『PPAの評価』(『旬刊経理情報』2021年11月20日号)

書評

PPAの評価―無形資産・動産の基礎から実務まで旬刊経理情報』2021年11月20日号の書評欄(「inほんmation」・評者:福嶋 五大 氏)に『PPAの評価―無形資産・動産の基礎から実務まで』(山本 智貴・金子 竜平〔著〕)を掲載しました。







PPA(Purchase Price Allocation)は、M&Aを実施した企業が会計基準に基づき、取得対価を買収した会社の資産・負債に配分する手続である。本書のなかで述べられている「PPAの実施により、取得企業がM&A取引において、取得することを目的とした資産を数値化」し、「M&Aの目的や意図を投資家に開示する」という視点は、重要なポイントである。

企業の実務担当者は、単にPPAを外部評価人に委ねるのではなく、買収の意図が、のれん・無形資産等の数値として適切にPPA結果に反映されているか、自らの目で見極めることが求められる。そのためには、PPAのプロセスや評価手法を十分に理解し、評価人とディスカッションを重ね、出来上がりのイメージを共有する必要がある。

本書は、PPAをまんべんなく解説するのではなく、初めてPPAに取り組む企業の実務担当者が、最短距離で必要な知識を習得することを念頭に、論点を厳選したメリハリのある構成になっている(その意味で、PPAの全体像を網羅的に学習したい方には、本書はあまりお薦めしない)。

第1章では、PPAの全般的な実務プロセスを解説している。特筆すべきは、PPA業務のなかでも手間と時間を要する、初期段階での評価人からの依頼資料・質問項目や、最終段階での会計監査人のレビューにおける実務担当者・評価人各々への想定質問項目を、筆者の経験をもとに具体的にリストアップしている点である。実務担当者はこれらを参考に、業務を遂行するうえで関与してもらう必要がある社内部門・メンバーの特定や、決算日程から逆算したPPAスケジュールの策定などの検討を進められる。

第2章では、PPAで識別される無形資産ごとの評価手法を解説している。評価人が実際に行う評価ステップに沿って説明が進められ、計算事例を使った実践的な内容である。実務担当者が評価人のドラフトレポートを確認する際に本書を併用することで、実務を通じた効率的な知識習得が期待できる。

第3章では、他の解説書ではみられないボリュームで、動産(有形資産)の評価が解説されており、本書の大きな特徴の1つである。まず、評価人とイメージを議論・共有するために理解すべき最有効使用の概念が、具体的な事例をもとにわかりやすくまとめられている。

また、工場の現地調査にあたっての予備知識が数多く紹介されている点も特徴的である。評価人の現地調査は、設備の専門知識を有する現場担当者に委ねる場合が多く、PPA担当者にとってこれらの予備知識の習得は必須ではないかもしれない。しかし、専門用語が多く使用される評価人のレポートを通読する際の、辞書代わりとして利用価値は高い。

最後に、PPA業務はM&A実施時のみ必要となる特殊業務であり、社内にノウハウが蓄積しにくい。本書はこの課題を解決してくれる一冊となり得るであろう。

福嶋 五大(パナソニック㈱ 経理・財務センター 会計・業績管理室 連結決算課 課長)