『原価計算システムハンドブック』(『旬刊経理情報』2021年11月1日号)

書評

原価計算システムハンドブック旬刊経理情報』2021年11月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:田中 敦 氏)に『原価計算システムハンドブック』(勝本 宗男〔著〕)を掲載しました。







原価計算に関する書物は数多く出版されているが、原価計算システムに関する書物は少ない。さらに本書は、原価計算システムが、どのような機能を保有すべきかだけでなく、どのような手順で、それを構築していくかまで記述している点で稀有な1冊といえる。

実は、弊社では、本書の「はじめに」で言及している原価計算パッケージ・ソフト「原価一番」を20年前から活用している。実際に運用しているシステムと原価資料が、体系だって解説されているという点で、本書はまさに実務担当者向きの書物といえよう。

本書は、まず第1章の「原価計算システムの基礎知識」で、業種業態を問わず、システム化のために最低限必要となる知識をまとめており、決算に対して月末あるいは期末の棚卸資産残高の確定値を提供するという重要な役割を会計仕訳の形で解説している。次に、その確定値を算出するために、原価計算基準が定める費目別計算、部門別計算、製品別計算の3つのステップについて、どのようなシステム機能とデータベースによって処理していくかを原価元帳の借方と貸方へのデータ・エントリーという形で説明している。

そして原価計算の最終ステップとして、システムが提供する計算結果の検証機能が重要であることを、具体例を示しながら解説している。結果の検証は、計算処理に責任を負う部署にとっては重要な職務であり、それがシステムによって保証されることは心強い。

第1章の最後では、製品別の利益性評価のために、その原価構成(直接材料費、外注加工費、社内加工費)を、どのように積み上げておくべきかを解説している。中間加工品の投入原価を累加法による前工程費として処理すると、最終製品の原価構成がわからなくなる。本書が提案する「累加法的非累加法」は、この問題に対する1つの解法といえよう。

第2章から第8章までは、個々の企業の業種業態に応じて必要になるかもしれないシステム機能をまとめている。これは企業ニーズに応じて選択的に読めばよい。

第9章の「計算モデル」は、本書の最大の特徴といえよう。多くの教科書で示されている計算事例は、その項目に関するデータと計算結果が単発的に示されている。これに対し、本書は、現実に発生する形態に近い内容で例示のデータを準備し、材料費計算、外注加工費計算、社内加工費計算および工程別の積上げ計算が、データベースをどのように更新していくかを、一連の流れとして具体的に示している。その結果の原価レポートは第10章に表示されている。

第11章と第12章は、原価計算システムをどのようにして構築していくか、その手順を示したものであり、実際にプロジェクトを編成し計画を立案するときの基本案を提供してくれる。

本書は原価計算システム担当者向けの書物ではあるが、関係する部門が、適正なデータをインプットしないと有効な原価情報を得ることはできない。その意味で、経理部門や生産管理部門の担当者にも一読をお薦めする。

田中 敦( ㈱ジャパンリーコム工場管理部 部長)